渡部亜希穂[13:30]
あたしはほんとに最低の女だ。
まじで最低だ。いつものかる~い口調の「サイテー」とかじゃなくて、ほんとにほんとの最低だ。画数がたくさんの、最低・最低・最低だ。
あたしは、トオルさんに罪をかぶせようとした。
トオルさんをおいて、逃げようとした。
あたしを助けてくれた人……って御苑の前のあれはうまくいかなくって一撃でやられちゃったけど、とにかく今朝からずっとあたしのことを助けてくれてた人には変わりない。そんなステキな人を、あたしは見捨てようとした。
ついさっき、いい子になりますって決めたばっかりだったのに!
最・最低だ! サイアクだ!
こういうのなんてんだっけ。裏切り者のユダ。そう、それ。
あたし、裏切り者だ。
ひどいやつだ。
ほんとまじでひどいやつなんだ。きっと人殺しよりも悪いやつだ。こんなやつ、死んじゃったらいいんだ。そうだ。あの徳永ってやつじゃなくって、あたしのほうがジューナナと心中しちゃえばいいんだ。そうだよ! そうすりゃイッセキニチョー、問題カイケツじゃん! 死んじゃえ、死んじゃえ、はやく死んじゃえ渡部アホ子十七歳(死亡年齢同じ)!
でも、そしたら。
「──だいじょうぶだよ、亜希穂さん」
まるで、ぴかーっと光がさしこむみたいに。
トオルさんの言葉。
最初の電話の時とおんなじ言葉。
あたしの心、ふわーっとなる。すごい。トオルさんて、ほんとすごい。魔法使いだ、この人。さっきは手のひらでケータイ消して、こんどは一言であたしの心の痛みを消してる。すごいすごいすごい。魔法使い。あたしの大好きな魔法使い。
決めた、こんどこそ決めた。てゆーか、心にちかった(画数おおくって、漢字わかんないけど)。あたし、トオルさんにふさわしい女の子になります。ぜったいなります。そんでもってトオルさんのこと好きです。大好きです。もう、この場でぜんぶ告っちゃうもんね。
「あ、あの! トオ──」
「アキホさん」
「え?」
「ケータイ、鳴ってるよ」
……なんでこのタイミングかな、もう!!
画面を見る。メールだ。あれ、先輩からだ。めずらしいな、直なんて。
件名:もう一時半だよ?
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