徳永準[12:51−12:58]
「……なんで?」
ぼくの間の抜けた質問は、車内アナウンスにかき消されそうになる。
「なんでって、徳永がドアに挟まれそうになってたから。それとも、挟まれたかった?」
「いや──そういうわけじゃ──」
ぼくはすっかり混乱している。高円寺駅がいつのまにか流れ去る。
「なんだよ、顔色悪いな。死人みたいな顔してる」
「えっ……」
「冗談だよ、冗談」
「あ? ああ、うん」
心臓が痛い。死人みたいな顔だって? 気にしちゃダメだ。いつもの伊隅の調子だ。以前から、彼はなにかといえば死体とか拷問についての話題をもちだす。本人もまわりも気づいてないみたいだけど。それとも、ぼくのほうが過敏になってるだけなのかもしれない。なにしろ最近のぼくは、死について考えてばかりいたんだから。
顔色。もしかして、自殺しようって決めた人間には、早めに死相があらわれるんだろうか? 伊隅にもそれが判るくらいに?
「お、降りなきゃ……漫画喫茶へ……」
「へえ?」伊隅の瞳が、レンズの奥で微笑む。「ちょうどいい。じゃあ一緒に行こうか」
「え?」
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