第67回 分けて並べて置き換えて(前編)

「へー、数式マニアは違うね」とユーリは言った。
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第66回の続き)

宿題を終えて

今日は土曜日。ここはの家のダイニング。 ユーリがテーブルの上でノートを広げて宿題をしている。

ユーリ「……あーできたできた! 宿題おーわりっと」

「ユーリ、なんでわざわざうちに来て宿題するんだ?」

ユーリ「別にいーじゃん」

「まあいいけどね」

ユーリは近所に住んでいる僕のいとこだ。 栗色のポニーテールにジーンズ。 しょっちゅうの家に遊びにやってくる。

ユーリ「遊びにやってくるって……ちゃんと宿題もやってるよ」

「だから、地の文に突っ込むなって。メタな行動、自重」

ユーリ「ふーん」

「宿題は数学?」

ユーリ「気になる? まー簡単な問題だよ。組み合わせの数。たとえばこんなの」

問題1(組み合わせの数)
$5$ 人の生徒から $2$ 人を選ぶ組み合わせは全部で何通りあるか。

「なるほど。ユーリには簡単だろうな」

ユーリ「簡単だよん。こうでしょ?」

解答1(組み合わせの数)
$$ \begin{align*} {}_5\textrm{C}_2 &= \dfrac{5 \times 4}{2 \times 1} \\ &= 10 \\ \end{align*} $$
だから、 $5$ 人の生徒から $2$ 人を選ぶ組み合わせは全部で $10$ 通りある。

「そうだね」

ユーリ「こんなの簡単すぎ!」

「 $10$ 通りだったら具体的に書くこともできるね」

$5$ 人の生徒(a,b,c,d,e)から $2$ 人を選ぶ組み合わせ

「ところでユーリは、なぜこの計算で組み合わせの数が求められるか、わかってる?」

$$ \dfrac{5 \times 4}{2 \times 1} $$

ユーリ「え? ……だって、 $5$ 人から $2$ 人選ぶけど、選ぶ順序考えないから半分」

「うんうん、そうだね。ユーリはよくわかっている」

ユーリ「えへん」

「こういうことだよね。 $5$ 人の中から $1$ 人選ぶ選び方は $5$ 通りある。そしてそのそれぞれの場合に対して、残った $4$ 人の中からもう $1$ 人選ぶ選び方は $4$ 通りある」

ユーリ「うん」

「ここまでで $5 \times 4 = 20$ 通りの場合の数があるけれど、それは選ぶ順序を区別してしまっている。 順列(じゅんれつ)を考えているわけだ。 でもいまは $1$ 人目にaを選んでから $2$ 人目にbを選ぶのと、 $1$ 人目にbを選んでから $2$ 人目にaを選ぶのとは区別しない。 組み合わせを考えたい。 つまりさっきの $20$ 通りはだぶって $2$ 倍数えていたことになる」

ユーリ「ふんふん」

「 $20$ 通りの順列はabとbaの両方を数えてる。でも組み合わせはどちらか片方だけ数えればいい」

ユーリ「だから、半分になって $10$ 通り! ユーリが言った通りじゃん」

$5$ 人の生徒(a,b,c,d,e)から $2$ 人を選ぶ《順列》と《組み合わせ》

「そうだね。ユーリの言った通りだよ。順序を考えて $2$ 人を選んでおいてから、順序は考えないことにするから割り算する」

ユーリ「そーそー」

「 $5$ 人から $3$ 人選ぶときも同じようにいえる?」

問題2(組み合わせの数)
$5$ 人の生徒から $3$ 人を選ぶ組み合わせは全部で何通りあるか。

ユーリ「同じ計算じゃん!」

解答2(組み合わせの数)
$$ \begin{align*} {}_5\textrm{C}_3 &= \dfrac{5 \times 4 \times 3}{3 \times 2 \times 1} \\ &= 10 \\ \end{align*} $$
だから、 $5$ 人の生徒から $3$ 人を選ぶ組み合わせは全部で $10$ 通りある。

「そうだね。 $\dfrac{5 \times 4 \times 3}{3 \times 2 \times 1}$ の分子 $5 \times 4 \times 3$ は、《 $5$ 人から $3$ 人を選ぶ順列の数》で、 分母 $3 \times 2 \times 1$ は、 《順序を考えて選んだ $3$ 人を並べ替える場合の数》だね。 分母は《 $3$ 人から $3$ 人を選ぶ順列の数》ともいえる」

$$ \begin{align*} & \text{《 $5$ 人から $3$ 人を選ぶ組み合わせの数》} \\ &= \dfrac{\text{《 $5$ 人から $3$ 人を選ぶ順列の数》}}{\text{《 $3$ 人から $3$ 人を選ぶ順列の数》}} \\ &= \dfrac{5 \times 4 \times 3}{3 \times 2 \times 1} \\ \end{align*} $$

ユーリ「くどい説明だにゃー」

「そう?」

ユーリ「そーだよー。順序を考えて、とかいちいち」

「まあ、そうだけど、そこは大事なポイントだからなあ。順序を考えて一列に並べるのが順列で、 順序を考えずに選ぶのは組み合わせ」

ユーリ「まーいーや。宿題終わったし、お兄ちゃん、何して遊ぶ?」

「ねえユーリ。ユーリはこの《 $5$ 人から $3$ 人選ぶ組み合わせの数》を《一般化》できる?」

一般化

ユーリ「いっぱんか?」

「そう。《変数の導入による一般化》だね。 $5$ 人から $3$ 人選ぶんじゃなくて、 $n$ 人から $r$ 人選ぶ」

問題3(一般化した組み合わせの数)
$n$ 人から $r$ 人選ぶ組み合わせの数 $\displaystyle\binom{n}{r}$ は何通りあるか。
ただし、 $n$ と $r$ はどちらも $0$ 以上の整数( $0,1,2,\ldots$ )とする。

ユーリ「あ、知ってる知ってる。学校でちゃんと習ったもん。それよりさ、お兄ちゃんって、組み合わせの数を ${}_n\textrm{C}_r$ じゃなくて、 $\displaystyle\binom{n}{r}$ って書くよね」

「そうだね。 ${}_n\textrm{C}_r$ と $\displaystyle\binom{n}{r}$ は同じ数だよ。学校では ${}_n\textrm{C}_r$ を使うけど、 数学の本ではよく $\displaystyle\binom{n}{r}$ が使われるよ」

ユーリ「へーそーなんだ。ユーリは見たことないけど」

「それにね、 ${}_n\textrm{C}_r$ よりも $\displaystyle\binom{n}{r}$ の方が、大切な $n$ や $r$ をはっきり書けるしね。 式も書きやすい。たとえば、 ${}_{n+r-1}\textrm{C}_{n-1}$ よりも $\displaystyle\binom{n+r-1}{n-1}$ の方が見やすいだろ?」

ユーリ「数式マニアは考えることが違うね」

「こんなのマニアじゃないよ……ところで $\displaystyle\binom{n}{r}$ はどうなった?」

ユーリ「どーなったって?」

「 $\displaystyle\binom{n}{r}$ を求める話。つまり、 $\displaystyle\binom{n}{r}$ を $n$ と $r$ を使った式で表せる?」

問題3(一般化した組み合わせの数)[補足あり]
$n$ 人から $r$ 人選ぶ組み合わせの数 $\displaystyle\binom{n}{r}$ は何通りあるか。
$\displaystyle\binom{n}{r}$ を $n$ と $r$ を使った式で表せ。
ただし、 $n$ と $r$ はどちらも $0$ 以上の整数( $0,1,2,\ldots$ )とする。

ユーリ「うん、知ってるよ。こーでしょ?」

解答3(一般化した組み合わせの数)
$n$ 人から $r$ 人選ぶ組み合わせの数 $\displaystyle\binom{n}{r}$ を $n$ と $r$ を使った式で表すと、 $$ \displaystyle\binom{n}{r} = \dfrac{n!}{r!\,\,(n-r)!} $$ になる。
ただし、 $n$ と $r$ はどちらも $0$ 以上の整数( $0,1,2,\ldots$ )とする。

「そうだね。 $n!$ は階乗(かいじょう)」

階乗 $n!$
$$ n! = n \times (n-1) \times (n-2) \times \cdots \times 2 \times 1 $$
※ただし $n = 0,1,2,3,\ldots$ とする。 $0! = 1$ と定義する。

ユーリ「知ってるよ」

「 $\displaystyle\binom{n}{r} = \dfrac{n!}{r!\,\,(n-r)!}$ は正しいんだけど、さっきユーリが答えた《 $5$ 人から $3$ 人選ぶ組み合わせの数》と見比べると、 少し気になることがある」

ユーリ「気になること?」

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結城浩

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コメント

the_monkey1988 順序を考えて一列に並べるのが順列で、 順序を考えずに選ぶのは組み合わせ  67回 分けて並べて置き換えて(前編)|結城浩 @hyuki | 約1年前 replyretweetfavorite

lighty_karume 順列と組み合わせの対比はすごく重要だと思う。コンビネーションの計算は奥が深いね!頭なでなで(笑) 4年以上前 replyretweetfavorite

sutare_subaru ユーリのように数学的嗅覚が鋭い生徒がいると授業は成立するのだろうか… やはり、一対一ならではなのかも 4年以上前 replyretweetfavorite

hyuki “@cielavenir: 僕はユーリの頭をなでさせていただいた。:” ユーリの頭をなでる特権… 4年以上前 replyretweetfavorite