「数学ガール」シリーズ既刊本5冊のうち、4冊がKindle版として刊行されました!
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(第66回の続き)
宿題を終えて
ユーリ「……あーできたできた! 宿題おーわりっと」
僕「ユーリ、なんでわざわざうちに来て宿題するんだ?」
ユーリ「別にいーじゃん」
僕「まあいいけどね」
ユーリ「遊びにやってくるって……ちゃんと宿題もやってるよ」
僕「だから、地の文に突っ込むなって。メタな行動、自重」
ユーリ「ふーん」
僕「宿題は数学?」
ユーリ「気になる? まー簡単な問題だよ。組み合わせの数。たとえばこんなの」
$5$ 人の生徒から $2$ 人を選ぶ組み合わせは全部で何通りあるか。
僕「なるほど。ユーリには簡単だろうな」
ユーリ「簡単だよん。こうでしょ?」
$$ \begin{align*} {}_5\textrm{C}_2 &= \dfrac{5 \times 4}{2 \times 1} \\ &= 10 \\ \end{align*} $$
だから、 $5$ 人の生徒から $2$ 人を選ぶ組み合わせは全部で $10$ 通りある。
僕「そうだね」
ユーリ「こんなの簡単すぎ!」
僕「 $10$ 通りだったら具体的に書くこともできるね」
僕「ところでユーリは、なぜこの計算で組み合わせの数が求められるか、わかってる?」
$$ \dfrac{5 \times 4}{2 \times 1} $$
ユーリ「え? ……だって、 $5$ 人から $2$ 人選ぶけど、選ぶ順序考えないから半分」
僕「うんうん、そうだね。ユーリはよくわかっている」
ユーリ「えへん」
僕「こういうことだよね。 $5$ 人の中から $1$ 人選ぶ選び方は $5$ 通りある。そしてそのそれぞれの場合に対して、残った $4$ 人の中からもう $1$ 人選ぶ選び方は $4$ 通りある」
ユーリ「うん」
僕「ここまでで $5 \times 4 = 20$ 通りの場合の数があるけれど、それは選ぶ順序を区別してしまっている。 順列(じゅんれつ)を考えているわけだ。 でもいまは $1$ 人目にaを選んでから $2$ 人目にbを選ぶのと、 $1$ 人目にbを選んでから $2$ 人目にaを選ぶのとは区別しない。 組み合わせを考えたい。 つまりさっきの $20$ 通りはだぶって $2$ 倍数えていたことになる」
ユーリ「ふんふん」
僕「 $20$ 通りの順列はabとbaの両方を数えてる。でも組み合わせはどちらか片方だけ数えればいい」
ユーリ「だから、半分になって $10$ 通り! ユーリが言った通りじゃん」
僕「そうだね。ユーリの言った通りだよ。順序を考えて $2$ 人を選んでおいてから、順序は考えないことにするから割り算する」
ユーリ「そーそー」
僕「 $5$ 人から $3$ 人選ぶときも同じようにいえる?」
$5$ 人の生徒から $3$ 人を選ぶ組み合わせは全部で何通りあるか。
ユーリ「同じ計算じゃん!」
$$ \begin{align*} {}_5\textrm{C}_3 &= \dfrac{5 \times 4 \times 3}{3 \times 2 \times 1} \\ &= 10 \\ \end{align*} $$
だから、 $5$ 人の生徒から $3$ 人を選ぶ組み合わせは全部で $10$ 通りある。
僕「そうだね。 $\dfrac{5 \times 4 \times 3}{3 \times 2 \times 1}$ の分子 $5 \times 4 \times 3$ は、《 $5$ 人から $3$ 人を選ぶ順列の数》で、 分母 $3 \times 2 \times 1$ は、 《順序を考えて選んだ $3$ 人を並べ替える場合の数》だね。 分母は《 $3$ 人から $3$ 人を選ぶ順列の数》ともいえる」
$$ \begin{align*} & \text{《 $5$ 人から $3$ 人を選ぶ組み合わせの数》} \\ &= \dfrac{\text{《 $5$ 人から $3$ 人を選ぶ順列の数》}}{\text{《 $3$ 人から $3$ 人を選ぶ順列の数》}} \\ &= \dfrac{5 \times 4 \times 3}{3 \times 2 \times 1} \\ \end{align*} $$
ユーリ「くどい説明だにゃー」
僕「そう?」
ユーリ「そーだよー。順序を考えて、とかいちいち」
僕「まあ、そうだけど、そこは大事なポイントだからなあ。順序を考えて一列に並べるのが順列で、 順序を考えずに選ぶのは組み合わせ」
ユーリ「まーいーや。宿題終わったし、お兄ちゃん、何して遊ぶ?」
僕「ねえユーリ。ユーリはこの《 $5$ 人から $3$ 人選ぶ組み合わせの数》を《一般化》できる?」
一般化
ユーリ「いっぱんか?」
僕「そう。《変数の導入による一般化》だね。 $5$ 人から $3$ 人選ぶんじゃなくて、 $n$ 人から $r$ 人選ぶ」
$n$ 人から $r$ 人選ぶ組み合わせの数 $\displaystyle\binom{n}{r}$ は何通りあるか。
ただし、 $n$ と $r$ はどちらも $0$ 以上の整数( $0,1,2,\ldots$ )とする。
ユーリ「あ、知ってる知ってる。学校でちゃんと習ったもん。それよりさ、お兄ちゃんって、組み合わせの数を ${}_n\textrm{C}_r$ じゃなくて、 $\displaystyle\binom{n}{r}$ って書くよね」
僕「そうだね。 ${}_n\textrm{C}_r$ と $\displaystyle\binom{n}{r}$ は同じ数だよ。学校では ${}_n\textrm{C}_r$ を使うけど、 数学の本ではよく $\displaystyle\binom{n}{r}$ が使われるよ」
ユーリ「へーそーなんだ。ユーリは見たことないけど」
僕「それにね、 ${}_n\textrm{C}_r$ よりも $\displaystyle\binom{n}{r}$ の方が、大切な $n$ や $r$ をはっきり書けるしね。 式も書きやすい。たとえば、 ${}_{n+r-1}\textrm{C}_{n-1}$ よりも $\displaystyle\binom{n+r-1}{n-1}$ の方が見やすいだろ?」
ユーリ「数式マニアは考えることが違うね」
僕「こんなのマニアじゃないよ……ところで $\displaystyle\binom{n}{r}$ はどうなった?」
ユーリ「どーなったって?」
僕「 $\displaystyle\binom{n}{r}$ を求める話。つまり、 $\displaystyle\binom{n}{r}$ を $n$ と $r$ を使った式で表せる?」
$n$ 人から $r$ 人選ぶ組み合わせの数 $\displaystyle\binom{n}{r}$ は何通りあるか。
$\displaystyle\binom{n}{r}$ を $n$ と $r$ を使った式で表せ。
ただし、 $n$ と $r$ はどちらも $0$ 以上の整数( $0,1,2,\ldots$ )とする。
ユーリ「うん、知ってるよ。こーでしょ?」
$n$ 人から $r$ 人選ぶ組み合わせの数 $\displaystyle\binom{n}{r}$ を $n$ と $r$ を使った式で表すと、 $$ \displaystyle\binom{n}{r} = \dfrac{n!}{r!\,\,(n-r)!} $$ になる。
ただし、 $n$ と $r$ はどちらも $0$ 以上の整数( $0,1,2,\ldots$ )とする。
僕「そうだね。 $n!$ は階乗(かいじょう)」
$$ n! = n \times (n-1) \times (n-2) \times \cdots \times 2 \times 1 $$
※ただし $n = 0,1,2,3,\ldots$ とする。 $0! = 1$ と定義する。
ユーリ「知ってるよ」
僕「 $\displaystyle\binom{n}{r} = \dfrac{n!}{r!\,\,(n-r)!}$ は正しいんだけど、さっきユーリが答えた《 $5$ 人から $3$ 人選ぶ組み合わせの数》と見比べると、 少し気になることがある」
ユーリ「気になること?」
この連載について
数学ガールの秘密ノート
数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに14巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)