逃げるひと、逃げないひと。
糸井重里(以下、糸井) あと、『ゼロ』を読みながら「人って、似てるところと似てないところがあるんだなあ」って思って。
堀江貴文(以下、堀江) ええ。
糸井 読む前は「自分と堀江貴文の似てるところ」なんて想像もつかなかったんだけど、読んでいくと、すごくいっぱい似てるんですよ。それでも、ほんのちょっとした「似てないところ」がある。この「似てないところ」が、その人の個性なんですよね。
堀江 ああ、そうですね。
糸井 そういう「似てないところがある」というのは、読んでてすごくおもしろいし、似てるところもおもしろいじゃないですか。だから、きょう堀江さんに会えること、楽しみにしていたんです。その「おせっかい度」は、ぼくにもまったく同じところがあります。
堀江 糸井さんもおせっかいですか?
糸井 ただ、押しの強さは違いますよね。本に書いてあったけど、堀江さんはいやいやながらも柔道の道場にいた人でしょ? ぼくはそういう場所から逃げてきた人だから。
堀江 それって、できました? ぼく、親が確実に無理だったんで。
糸井 そこですよね。
堀江 うちは包丁が出てくるんで。本の中では象徴的に書かれていますけど、ほんとに出ましたから。もちろん刺す気はなかったでしょうけど。
糸井 ご両親のことは別にして、やっぱり暴力って、物事を安いコストで解決しようとしてるんですよね。
堀江 ああー、なるほど。
糸井 きっとお父さんもお母さんも若かったんだろうし、大人になってからは、もう少しコストかけようと思えるようになったんじゃないかな。
堀江 そうですねえ、まあ暴力はなくなりましたけど、パソコンを捨てられちゃったりとか、そういうのはいろいろありましたね。
糸井 パソコンってこわいのは、脳で直結するじゃないですか。つまり、「ここにある具体的な世界」とは違うところにつながってるでしょ。
堀江 ええ。
糸井 それで後ろから呼びかけたとき、「こことは違うところ」につながってた人が振り向いたときの目って、「向こうの目」をしてるんですよ。あなたを見てない目、というか。親が子どもにあの目をされたら、それはこわいと思いますよ。
堀江 ああ、なるほど。
糸井 それでも、堀江さんが逃げなかったというのが、やっぱりいちばんの違いだよね。ぼくはなんでも、ぜんぶ逃げるんです。この逃げ足こそがおれだ、みたいなところもあるし。だって学生運動から逃げたってのは、いちばんでかいですからね。その逃げ足たるや、必死でしたから。
堀江 えっ、糸井さんって学生運動の世代なんですか?
糸井 はい。ぼく65歳ですから。25歳違うんですよ、堀江さんと。
堀江 いやあ、学生運動の世代かあ。うちの母親と同じくらいですかねえ。母が1950年生まれですけど。
糸井 ぼくはそれより2つ上です。
堀江 そうかあ、すごいなそれは。
糸井 だから逃げてきた人間として、ぼくには「ひとは『ほんとにいやなこと』はしないよ」という根本的な人間観があるんです。命令して最後までうまくいくことはないと思ってるし、ルールをつくってもそれに従って生きる人はいないと思ってる。だって、自分がそうだから。そこは、ものすごく逃げ回って、いやなことをしない人生を送ってきたからなんです。ところが、堀江さんはぜんぶ逃げなかった。
堀江 いやなこと、できますね。なんか、目の前にある「いやなこと」を「いやじゃないこと」に変えていく努力をしますね。
糸井 そうみたいです。でも振り返ってみると、それを他人には強要してなかったみたいですね。
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