海外は、日本にある
糸井重里(以下、糸井) 『ゼロ』の話でいうとね、これを読んで具体的にいちばん役に立ったのが、ヒッチハイクの話だったんですよ。
堀江貴文(以下、堀江) あ、ぼくが大学時代にヒッチハイクをやっていた話。
糸井 あれ、ぜんぶ入ってると思って。ヒッチハイクの中に。世の中って「やってみないと自分がどう思うかわからないこと」だらけじゃないですか。刑務所なんかはその典型でしょう。意外と入っても平気だったかもしれないし、ものすごく苦しかったのかもしれないし、たぶん事実はそのどちらでもないんでしょうけど。
堀江 そうですね。刑務所については、なにも考えないままフラットな状態で入るようにしていました。まわりからはすっごい聞かれるんですよ。「入ったらどうするの?」「いまどういう気持ちなんですか?」とか。
糸井 ははー。あらかじめ考えず、はじめての環境として入っていったんですね。
堀江 そうです。先入観なしに、ゼロベースで入るしかないですからね。
糸井 だから、それもヒッチハイクだよね。けっきょくヒッチハイクでトラックの助手席に乗るときに「こわい人が乗ってたらどうするんですか?」って聞かれてるのと同じだもん。そんなのわかんないし、向こうだって「こわい人だったらどうしよう」と思ってるわけだからね。
堀江 ええ。ヒッチハイクを始めたころは「向こうもこわがってる」ということに気づけなかったんですよ。それは乗せてくれた人たちとの会話の中で出てくるんです。「やばい人だったらどうしようかと思ったよー」みたいに。
糸井 それはそうですよね。
堀江 向こうも不安だから、「ほんとにお前学生なのか、学生証見せてみろ」っていわれるんですよ。それで見せたら安心するんですけど、中には「東大生がヒッチハイクするわけねえだろ」と疑い出す人もいて、だから途中から「明大生です」っていうようにして。やっぱり明治大学とヒッチハイクだと、校風的にもリアリティがあるみたいで。
糸井 向こうの物語としてね(笑)。
堀江 そういうところは、いろいろ学びましたね。
糸井 たぶん「ああして、こうして」って、あらかじめ筋書きを立てて、「運転手さんにこの話をしよう」とか考えてたら、ダメですよね。
堀江 ダメですね。
糸井 向こうがどんな出方でやってきても、即興で返せるようにならないと。
堀江 そうです。
糸井 シャイだったとか、若かったというのは抜きにしても、あのヒッチハイクをやったというのはすごく大きかったでしょうねえ。
堀江 大きかったです。しかもぼくの場合、そこからさらにテクニックとか磨くんですけど、たとえば東京から大阪に行くのに、10台くらい乗り換えるんですよ。
糸井 それ、わざと乗り換えるの?
堀江 わざとです。
糸井 おもしろいねえ。どうして?
堀江 1台に長く乗ってると眠くなるし、次のサービスエリアまで行く車を見つけるのは簡単だけど、大阪まで行く車を見つけるのはむずかしいので。
糸井 つまり「一気に行けるのがいちばんいい道とは限らない」という考え方をしたんだ。
堀江 そうです、そうです。覚悟してコミュニケーションすると、なんとかなるんだなというのも身につけましたし。アドリブで対応する能力も身につけて、運転手さんからコーヒーをおごってもらったり、朝ごはんをおごってもらったりしていましたね。
糸井 あのヒッチハイクの話は、読者としてほんっとによかった。なんかね、「若者はもっと海外に行きなさい」という話があるけど、海外は日本にあります、よね?
堀江 ありますね。
糸井 いまの話なんか海外そのものだし。たとえばトラックの運転手さんにむずかしい話をしても、「うっせーよ!」で終わるかもしれないじゃない。
堀江 トラック運転手さんの場合、ぼくはだいたい説教されてましたね。
糸井 いや……説教されやすい、というのは取り柄ですよ?
堀江 はい(笑)。実際、説教する人は乗せてくれるんですよね。たぶんぼく、説教オーラが出てるんですよ。こんこんと説教されるという。
糸井 それは堀江さんの取り柄ですよ(笑)。