40歳で訪れた転機
堀江 今回こういう本を出そうと思った理由のひとつに、刑務所で決意したことがあったんですよ。
糸井 ほう。
堀江 ぼくは40歳という年齢を、刑務所の中で迎えたんですよね。それで、なんていうんですかね。「人生けっこうきちゃったな」と。
糸井 きたな、と(笑)。
堀江 「やばいな。やりたいこといっぱいあるのに、ぜんぜんできてないじゃん」って。それで、なぜやれてないのかというと、せっかく恵まれた立場にいたのに、シャイな性格で逃してきたチャンスもいっぱいあったんですよ。ぼく、基本的にシャイなので。
糸井 はい、はい。
堀江 自分からアプローチしないんですよね、人に対して。とくにホリエモンとして有名になって、みんなが向こうからアプローチしてくれるようになったとき、その環境に甘えていた気がして。
糸井 ああー。寄ってくる人は増えますからね。
堀江 でも2年間、刑務所の中で人生を過ごすわけだから、あの日々がムダだったとは思わないけど、機会損失は大きいですよね。だから会いたい人、会わなきゃいけない人には、自分からアプローチしようと、いまは思っていますね。
糸井 それね、ぼくもちょうど40歳くらいのころに思いました。
堀江 そうなんですか?
糸井 うん、ぼくが自分はシャイだっていってもみんな信じてくれないんで、いわないことにしますけど(笑)。
一同 (笑)。
糸井 やっぱりシャイですよ、人は。
堀江 ええ。
糸井 みんなさ、我慢してシャイじゃないようにするんですよね。その意味でいうと、受け身でいたほうが、自分が傷つかないんですよ。
堀江 そう、そうなんです!
糸井 だからぼくも、誘いのあったお仕事を「いやだ」とか「いいね」とかいいながらこなしていた時代が長かったんです。それをぼくは「芸者さんの時代」といってるんだけど。
堀江 芸者さんの時代?
糸井 つまり、お座敷がかかったら踊る、という受け身の仕事ばっかりで。でも、たとえ100万個のお座敷がかかっても、踊れないんですよ。だとしたら、けっきょく誰とも会わないのと同じですよね。踊れるところでしか踊らないんだから。
堀江 そうですね。
糸井 だから、頼まれた仕事は「自分から『やらせてください』といえる仕事」に置き換えられるか? と考えることにしたんです。なにかお誘いがあったとき、すぐに返事をしないで1日置く。それで「こういう仕事があるって知ったとき、おれのほうから『やらせてください』と思うかな?」と考える。そして、こっちからお辞儀してでも「お願いします」っていえる仕事だけをやっていく。そうすれば自分がお願いしたのと同じだから、責任感も強くなるしさ。ちょうどいまの堀江さんと同じ時期ですよ。
堀江 なるほど。
糸井 厄年って、ないようであるんですよね。たぶん、からだの変わり目でもあると思うんだけど。自分ではかなり力がついたと思ってるのに、社会はそう見てくれない。力の割に、無力感を感じるんですよ。40歳くらいのとき。
堀江 うーん。
糸井 もっと歳をとればみんなが認めてくれるかというと、それはないんだけど。その無力感で、自分を考えなきゃならないのが厄年くらいのころなんですよね。堀江さんの場合は刑務所が重なってるから、なおさらだよね。「無力そのもの」になるわけだから。
堀江 手足を縛られた感じで。
糸井 無力であることが強調されますよね。
堀江 だから、あの誕生日で決意しました。とにかくこれからは積極的に人と交わっていこうと。もう、後悔できないですから。
糸井 後悔もありましたか?
堀江 ええ。ちょうどそのころ、スティーブ・ジョブズが亡くなったんです。それでほんとに思ったんですよ。「スティーブ、会っとけばよかったな」って。
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