【第16回】
「無能な働き者」にならないために
—大躍進政策の悲劇

あえて断言しよう。あらゆる学問のなかで統計学が最強の学問であると。 どんな権威やロジックも吹き飛ばして正解を導き出す統計学の影響は、現代社会で強まる一方である。「ビッグデータ」などの言葉が流行ることもそうした状況の現れだが、はたしてどれだけの人がその本当の面白さを知っているだろうか。この連載では、cakesという新しいプラットフォームに相応しい、最新かつ最も刺激的な統計学の世界を紹介したい。(毎週火・金更新)

「攻め」の統計学、「守り」の統計学

 ここまで書いたようなことを説明すると必ず来る反論に「そうやってチマチマ検証している間にとっとと行動を起こしたほうが早いのではないか?」というものがある。

 とにかく優秀なビジネスマンという生き物は行動力が素晴らしい。「考えている間に行動しろ」とか「やらないで後悔するよりとりあえずやってみろ」といった格言はしばしば聞くし、私はその姿勢を尊敬している。
 だが、そうした行動的な姿勢でビジネスに取り組むにせよ、というよりも、そうした姿勢でビジネスに取り組むのであればなおのこと、ランダム化比較実験は大きな力を発揮する、というのが私の見解である。

 その理由は大きく分けて2つあるが、1つには再起不能になるようなとんでもない大失敗を回避できるという「守り」の効果によってより大胆な行動が取れる、という点がある。

 そしてもう1つは、普通だったら失敗するだろうと試そうとすら思わないことでもガンガン試して成功に繋げられる、という「攻め」の効果である。こうした攻防一体の効果があるからこそランダム化比較実験あるいは統計学自体、最強の学問なのである。

 そこで少し本題からズレるが、こうした「守り」の効果について認識するために。まず「統計学を使わなかったばかりにどういうことが起こったか」という歴史から学んでみよう。

 良いはずだと考えられることがあるのなら、チマチマ検証するよりも可能な限り大々的に実際のアクションを取ったほうがいいというタフガイたちによって、あるいはもう少し口を悪く言うと「行動的すぎる人」たちによってどれだけの被害が起こり得るかというのが今回のテーマだ。

「無能な働き者」の処遇

 一説によると第1次大戦後のドイツの軍人であるハンス・フォン・ゼークトは「軍人は4タイプに分けられる」と言ったらしい。そして4タイプのうち3つについて以下のように述べている。

  • 有能な怠け者は部下の力を上手く使い、楽に勝利できる方法を考えられるために指揮官に向いている
  • 有能な働き者は勤勉に自ら考え、あらゆる下準備を怠らないため参謀に向いている
  • 無能な怠け者は参謀の進言や上官の命令通り動くので総司令官か兵士に向いている

 

 では4つめの「無能な働き者」について、彼はどうすべきであると述べたのだろうか?
 答えは「自軍にとんでもない被害をもたらすから早めに処分しろ」である。

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統計学が最強の学問である

西内啓

あえて断言しよう。あらゆる学問のなかで統計学が最強の学問であると。 どんな権威やロジックも吹き飛ばして正解を導き出す統計学の影響は、現代社会で強まる一方である。「ビッグデータ」などの言葉が流行ることもそうした状況の現れだが、はたして...もっと読む

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