第2回 350時間から濃縮された2時間をつくる

2011年に公開し、ドキュメンタリー映画としては異例の興行収入1億円を突破した『エンディングノート』。砂田麻美さんの初監督作品は数々の映画賞を受賞し、一躍脚光を浴びました。「ガンを患った父親」の次の題材となったのが、あの「スタジオジブリ」です。砂田さんは、膨大な素材からどのように映画『夢と狂気の王国』を煮詰めたのか、じっくりと伺いました。第2回は、言葉でつないでいくドキュメンタリーと違い、言葉の後ろにある色や音などの情報を複合的にかけ合わすという映画特有の編集作業についてです。

言葉でつなごうとすると映画は破たんする

— 最初作品の企画をスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーに出したときには、なかなかOKが出なかったそうですね。最終的にテレビやDVDではなく「映画を撮りたい」という点が決め手になったと聞きました。砂田さんは、テレビやDVDのドキュメンタリーと、ドキュメンタリー映画の違いをどのように考えているんでしょう?

砂田麻美(以下、砂田) それはすごく難しい問題で、ひと言でこういうふうに違うっていうのは、私も言えないんですけど……。ただ、大事なのは、「情報」をどうとらえるかだと思うんです。
たとえば、スタジオジブリのドキュメンタリーって、すでに秀逸なものがたくさんつくられていますが、それらの大半は、主に言葉をつないで構成されています。登場人物のキーとなる発言や説明となるナレーションで事実関係でつないでいったりするものが多いですよね。

— 映画の場合は違うんですか?

砂田 私はドキュメンタリーをつくるとき、最初にすべての言葉を文字に起こすんですけど、それは情報の一部でしかない。映画って、言葉だけでつなげようとすると破綻するんですよ。もちろん、言葉も大事なんですが、「映画のなかにある情報」って、それだけじゃないと思うんです。言葉だけを聞いていると情報が少ないように見えるかもしれないけれど、その言葉の後ろには色だったり、音だったり、複合的にさまざまな要素がかけ合わされています。あの2時間っていう暗闇のなかで濃縮される映像には、見えない情報がとてもたくさん隠れている。

— 映像を文字に起こすってことは、最初は言葉で考えるんですね。

砂田 『エンディングノート』のときは、ほとんどが無駄な会話だったので、大事なところをピックアップするのにそこまで迷わなかったんです。でも、『夢と狂気の王国』では、1年間ジブリに通って撮影した素材が350時間以上もありました。それを専属のスタッフが、ひたすら朝から晩まで文字に起こして、ファイリングして。私はまず読むところから始めるんですが、文字で読んでいると本当におもしろいんですよ。もう、すべてのシーンが。
宮崎駿監督は、一度でそのまま一冊の本ができるくらいいろんな話をしてくださるし、今回、出てくる人たちの話のレベルが異常に高い状態だったので。もう何を選んでいいかわからないっていうくらい。

— 350時間! 文字を読むだけでもひと苦労ですね。それを2時間に編集するとなると……。

砂田 どこを選ぶかっていうのは、本当に難しくて。やっぱり、おもしろい言葉と言葉でつなぎたくなっちゃうんですよ。最初はそういうふうにつないでいくしかないですし。でも、文字起こしから選んだカットを実際の映像としてつないだときに、映画としては成立しない瞬間がものすごくたくさん出てきます。映画の編集作業って、化学の実験みたいだなって思いました。
理屈としては「これとこれをかけ合わせれば、こういう結果が出るはずだ」って思っても、実際にはうまくいかない。そんなときは、またふたつを離して、別のものとかけ合わせるという作業を延々と繰り返すしかないんです。宮崎さんも映画のなかでおっしゃってましたけど、本当に「映画って生きもの」なんだと思います。

— 砂田さんが使う素材を選んだり、削ったりするときの基準って、言葉以外にたとえばどんなものがあるんでしょう?

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希望としての狂気の描き方—砂田麻美監督インタビュー

砂田麻美

2011年に公開し、ドキュメンタリー映画としては異例の興行収入1億円を突破した『エンディングノート』。砂田麻美さんの初監督作品は数々の映画賞を受賞し、一躍脚光を浴びました。「ガンを患った父親」の次の題材となったのが、あの「スタジオジブ...もっと読む

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kous37 『映画って、言葉だけでつなげようとすると破綻するんですよ』なるほど!その通りだなあ。 https://t.co/sVHO5pBAfK 5年弱前 replyretweetfavorite

hirofumi21 「宮﨑駿と久石譲の打ち合わせ」も撮っておいて使ってなかったのか!これは驚き。それにしても本当に鬼畜と思われるほど拘って作っているのが、これ読んでると伝わってくる。:350時間から濃縮された2時間をつくる|砂田麻美監督インタビュー http://t.co/5dPjAP6fhv 5年弱前 replyretweetfavorite

mizutag ジブリのドキュメンタリー映画撮ってたの、知らなかった。観たい。 5年弱前 replyretweetfavorite

nezumicha これまた観たいな。夢と狂気の王国の砂田麻美監督のインタビュー https://t.co/O0XCFjNx3X 5年弱前 replyretweetfavorite