麻雀千年紀

あけましておめでとうございます! cakes新年特別更新にあわせてphaさんがエッセイを特別寄稿。今から14年前、2000年の新年を前に世間が「ミレニアム」に湧いていたころ、大学生のphaさんは古い大学寮で日々麻雀を打っていました。毎日毎日同じようなメンバーで麻雀を打ち続けているうち、次から次へとあたらしいルールが生まれてきました。phaさんはそこになにを感じたのでしょう。

2000年1月1日、新しい千年紀が始まった日、僕は当時住んでいたK大学K寮でいつもと同じように麻雀を打っていた。

当時僕は22歳の大学生で、勉強もしたくないけど就職もしたくないし、将来が全く見えなくて、学校にもろくに行かず寮にひきこもって、現実逃避的に毎日麻雀ばかりしていた。麻雀の卓を囲んでいる時だけは現実の面倒臭いことを全て忘れていられた。

その日も正月だからといって特に新年ぽいことをするでもなく、唯一年末年始を感じさせるのは寮生の多くが実家に帰省してしまって麻雀の面子が集まりにくいということだけで、いつもと同じように、ボロボロに古びたコンクリートの建物の中で隙間風に震えながら、唯一の暖房器具であるこたつに4人で足を突っ込んで、冷たい指先でただひたすらに麻雀牌をかき混ぜていた。

「せっかくミレニアムなんだから、ちょっと別のルールでやらないか」と僕は言った。
他の3人が、こいつは何を言ってるんだ、という顔で僕を見た。
「リーチするときって1000点棒を出すじゃん。それを2000点出してリーチしたら『ミレニアムリーチ』ってことで普通は1飜のリーチが2飜つくことにしようぜ」

みんな普通の麻雀に飽きていたので、やろうやろう、ということでこのミレニアムリーチが導入されることになった。

だけどこのミレニアムリーチ、2000点のコストで役の強さが倍になるというのはちょっと安価で強力過ぎた。必然、みんな普通のリーチをせずに、「ミレリー」ばかりが卓上に飛び交うようになった。

「これゲームバランス悪くないっすか」と後輩のYが言った。「普通のリーチする気がしないっす。クソゲーなのでは」

確かに、と僕は考えこんだ。ミレリーが強力すぎるのならもうちょっと弱めたほうがいい。でも、役の強さを2飜から下げると1飜のノーマルリーチと同じ強さになってしまうから弱めようがないし、コストを上げるなら供託する点数を上げるのが一番簡単だけど、2000点じゃないとミレニアムの意味がなくなってしまう。どうしたものだろうか。

「じゃあこうしよう」と僕は言った。
「ミレリーは今まで通りに2飜。だけど、ミレリーでアガったときは、サイコロを2個振るようにする。それで、ゾロ目が出なかったら普通に点数が貰える。でももしゾロ目が出たら……」
「出たら?」
「コンピュータが『誤作動』してアガった点数を逆に相手に払わなければいけないようにしよう」 「コンピュータって何すか」
「まあそういうものがあるということにしようや」
当時、「2000年問題」でコンピュータが誤作動して世界中でいろんな問題が起こるということがニュースになっていたのだ。
「しかも1のゾロ目か6のゾロ目が出たら『大誤作動』ということで2倍の点数を払わないといけないことにしよう」

サイコロを二つ振ってゾロ目が出る確率は6分の1。1か6のゾロ目が出て「大誤作動」する確率は18分の1。これでちょうどよくバランスが取れているのかは分からないけど、「サイコロを振る」という行為はシンプルだけどなかなか盛りあがるものだ。結果、リスクを顧みずにミレリーに突入する勇者が続出して、
「ミレリー!」
「ロン、サイコロ振ります! うわっ、誤作動した! 飛び!」
などという白熱した闘牌が行われた。

【ミレニアムリーチ】
●千点棒を2本出して「ミレニアム」と発声する。他は普通のリーチと同じ。強さは2飜。
●アガったときはサイコロを二つ振る。ゾロ目が出ると「誤作動」が起こり、アガった点数を相手に払わないといけない。1のゾロ目か6のゾロ目が出たら「大誤作動」ということで2倍の点数を払わないといけない。

「Yは帰省とかしないの?」と配牌を取りながら僕は後輩に聞いた。
「はい、正月は帰らないんですけど、でも成人式があるので来週帰る予定です」
「成人式だと!」とS先輩が顔色を変えた。
「成人式ということは、あの麻雀をやらんといかんじゃないか。こんなミレニアムなんてわけの分からん麻雀をやってる場合じゃない」
「え……なんですか……」
「二十歳の献血というルールを知らんかね」
「知りません……」
「知らないなら教えてあげよう」

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pha

「日本一有名なニート」として知られ、日本全国から海外にまで進出しているシェアハウス「ギークハウス」の発案者でもあるphaさんのエッセイです。phaさんが日常の中で発見したものやことを、独特の浮遊感ある文体で紡ぎます。(不定期更新)

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コメント

DaishiZeppelin 会員登録してないから最後まで読めないんだけど、「麻雀」「二十歳の献血というルール」というフレーズになぜかザワザワする… 2年以上前 replyretweetfavorite

grassrainbow ちなみに、京大の某寮ではとんでもないルールで麻雀をやっていることで有名ですね 約3年前 replyretweetfavorite

akensho この人の言語センス、JOIerっぽいなと思ってたんだけど、ちょっと異なる。これは .@ir5 氏のセンスと同じだ。KUの校風なのかな https://t.co/Xgb0bF0POB 約3年前 replyretweetfavorite

inoken0315 “二十歳の献血というルールを知らんかね”>ぶんぶんレジデンス! 約3年前 replyretweetfavorite