パート2.例のメールが届いてから 西満里江[9:40]笹浦耕[9:40]伊隅賢治[9:42]

この世から去るのに『完璧な場所』で『最良の方法』を確かめなきゃいけないのに、ぼくのケータイはあの女のところ――とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすすめ文庫王国2009』でライトノベル部門の堂々1位を獲得した『15×24(イチゴーニイヨン)』シリーズを2巻まで連日更新。読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉を味わってみてください。

西満里衣(ニシ マリエ) [09:40]

 最初の感情は、強烈な怒り。
 それからすぐに、猛然とやる気がわいてきた。背筋の産毛が、ぞくぞくっとウェーブ状態。そうだ──二度目の小四の夏に生まれて初めてランス・アームストロングの映像を見た、あの時と同じ、例の感覚。
「……ふっざけんじゃないわよ!」
 自殺? しかも予告して?
 人をバカにするのも、たいがいにしてほしいもんだわ。わたしの中のエンジンはオーバーヒート、ギアは即座に最高速アウターになって、足許からはワイヤーの弾ける音さえ聞こえそう。
 メールはトウコさんからだった。
 彼女とはネットで知り合い、わたしがバイトでメンテしてるパラリンピック支援サイトにちょくちょく遊びにきて、書き込みもしてくれる。オフで会ったことはないけれど、でも信頼できる人だってことは了解済み。
 メールは短くて(トウコさんはいつも要領がいい)、要点は二つ。どっかの大バカ野郎が、親からもらった大事な命を勝手に捨てちまおうと決心した……だけならまだしも、ごていねいにも周囲に知らせてまわってる。
 なんて奴だ! ほんと最っ低!
 結論が弾き出されるまでに、五秒フラット。愛用のフックでコートを引き寄せ、完全防寒武装までに三十秒。ケータイ、ノートPC、ぜんぶよし。
「ママ、ちょっと出かけてくるから!」
「えぇ?」奥の台所から返事がかえってくる前に、わたしはふすまを開けて狭い廊下を滑り、とっくに玄関の前。「まりえ、どうしたの急に。それに今日は土曜でしょ、バスは普通のしか──」
「だいじょぶ! 東京まで行って、すぐ戻るから!」
「……え? 東京て……ま、まりえ!?」
 食器がひっくり返る音。あとで謝っとかなくちゃ、と心の中にメモしつつ、止まるつもりは全然なし。ダッシュしたら、ゴールまで止まらない、それがわたしというメカニズム。
 外──体感温度マイナスの突風!
 負けるもんか!
 両腕に全力をこめて、わたしは玄関を飛び出した──とりつけたばかりの速度計は瞬時に時速二〇キロ──背筋を伸ばし、腰に力をのせ、車椅子の両輪をしばれる冬のアスファルトにくい込ませながら。

西満里[10:10−]へ進む


笹浦耕 [09:40]

 だから言ったでしょ、西にしは真面目なやつなんだって。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

ケイクス

この連載について

初回を読む
15×24(イチゴーニイヨン)link one せめて明日まで、と彼女は言った

新城カズマ

「なんで自殺しちゃいけないの?」とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすす...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません