電気サーカス番外編 第3回(全3回)

単行本『電気サーカス』の発売を記念して新たに書下ろした番外編をお届けします。番外編は単行本には未収録です。

 確かにインターフォンのベルがドアの向こうで鳴り響いた筈だが、何の反応もない。少し待って、もう一度スイッチを押すと、ようやく物音がして、
『はい』
 と、紛れもない父の声がスピーカーから流れ出す。
「優だけど」
 優がそう名乗ると、相手は明らかに動揺した声で、
『何の用だ?』
「話があって来たんだ。開けてくれない?」
 優の声は怒りと緊張で震えている。
『一人で来たのか?』
 そこで優は僕を振り返ったので、目配せをする。
「悟君と一緒に来た」
『そうか。……お父さんは出られない。用件があるなら、そこで言ってくれ』
 父親は僕を警戒しているからそういう言葉になったのだろう。優一人だったら、開けていたのかもしれない。それは間違いなく、優を見くびっているからだ。舐めくさっているからだ。
 優もそれを察したのか、若干興奮して、
「なんで開けられないんだよ! それくらいしたっていいだろ!」
 インターフォンに向かって叫ぶが、スピーカーからは、プツリと通話の切れる音が帰って来るだけだった。
「こんなに情けないとは思わなかった」
 何度インターフォンを鳴らしても通話をしようとしない父に、優はそうため息をもらす。まさか会うことまで拒否されるとは想定しなかったらしく、動揺が見て取れた。
「どうして話も出来ないんだ? 何か理由があるなら、ちゃんと言えばいいのに」
「本人も、後ろめたいのはわかっているんだろう」
 思いの外に意気消沈をしている優を見ながら、これならもう暴力を振るうこともなさそうだと、内心で安堵のため息をつきつつ僕は言った。
「昔はあんなじゃなかったのに」
 優がもう一度ため息をつき、僕も、かつての強く自信にあふれていた父親を思い出した。
 夜遅く、いつまでもこんなところで二人で突っ立って居ても仕方がない。引き上げようか、と、僕が提案しかけたところで携帯電話がなった。相手は、母親である。
『いま、お父さんのところに行っているの?』
「そうだけど、どうして知ってるの?」
『さっき、お父さんから電話があってね。悟と優が家に押しかけてきたけど、お前がやらせたのかって、お母さんに言ってきたの』
「は?」
『お母さんが指図をして、けしかけたんじゃないかって。どうしてそんなこと言うんだろう? そんなことするわけないし、二人とも、言ったって言うことを聞く子供じゃないのにねえ』
「ふざけやがって、馬鹿にしてやがる」
 僕は目眩がするほどに腹が立った。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

週刊アスキー

この連載について

初回を読む
電気サーカス

唐辺葉介

まだ高速デジタル回線も24時間接続も普及しておらず、皆が電話回線とテレホーダイを使ってインターネットに接続していた時代。個人サイトで自己表現を試みる若者達がいた……。

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード