電気サーカス番外編 第2回(全3回)

単行本『電気サーカス』の発売を記念して新たに書下ろした番外編をお届けします。番外編は単行本には未収録です。

 その日、崇は結局来なかった。彼がいないとやり繰りは難しいのだが、幸いいつもに比べてオーダーは少なく、亮介と二人でも仕事はこなすことが出来た。
 営業が終わり、暗くなった店内で母親と差し向かって酒を飲む。席上では離婚を踏まえたこれからの予定について話し、そして、弟達の話となった。
 崇は末っ子だけれどもしっかりしているから、今後もなんとかなるだろう。しかし、次男の優はどうするのか。家庭内がごちゃごちゃとしてから、部屋にひきこもってほとんど出て来ようともしない。
 そんなに深刻な話かな、と、むしろせいせいした気持ちでいる僕などにはちっともピンとこないのだが、父親の仕事を手伝ったりして、幼い頃から父親に近かった彼は、僕などには想像もつかないような苦悩があるのかもしれない。
「まあ、自分で何か考えるでしょ。俺達だって、他人のことをあれこれ考えているような状況じゃない。それより、今日崇は、欠勤の連絡をする時、何て言ってたの?」
「それが、また変なことに巻き込まれたらしいのよ」
 と母親は顔を曇らせる。
 聞くと、子供の頃にからかっていた相手が暴力団員になって、脅されているのだと言う。
「だから友達の家に泊まるんだって。警察に相談してなんとかしてもらうそうだけれど、待ち構えてるかもしれないから、しばらくは家に帰れないって言ってる」
「それはまた大事だね」
「まったく、いやになっちゃう」
「因果応報だから、仕方ないんじゃないの。でも、そういう話って、現実にあるもんだね」
 僕が笑うと、母親はため息をつく。
 しかし、よく考えて見れば他人ごとではない。
 家に帰れないということは、店にも顔を出すことは出来ないということだ。それはすなわち、厨房での僕の負担が増えるということを意味するのだ。そういうわけで、翌日は本来休みであったのだけれども、急遽出勤することとなった。
 一日をかけてサイトの文章を考える予定だったので、調子が狂ってしまう。実際のところ、毎日のくだらぬあれこれよりもインターネットの文章の世界の方が、僕にとってはリアリティがあるのだ。なのにこうして忙殺されてしまうのは不本意だ。作業をしながらもインターネットのことばかり考えて、そうして一日の仕事を終えた。

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電気サーカス

唐辺葉介

まだ高速デジタル回線も24時間接続も普及しておらず、皆が電話回線とテレホーダイを使ってインターネットに接続していた時代。個人サイトで自己表現を試みる若者達がいた……。

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