2013年5月に渋谷区の恵比寿にある日仏会館で開催された、「企業化する教育とグローバリゼーション」という講演を聴いてきました。
講師はフランスのパリ西ナンテール大学のクリスチャン・ラヴァル教授(社会学)です。ラヴァル教授いわく、教育はかつて政治(国民国家)に従属していたが、現在は経済に従属していると言います。「良い国民を作る」から「経済的人間を作る」へと、教育の目的が変わって来ているのです。そして、OECD、WTO、IMF、EUなどが推奨する教育政策を各国が推し進めていると言います。
こういった流れの中で、各国の教育が、世界市場に飲み込まれていきました。学校が経済化すると、教育は商品になっていきますから、モンスターペアレントは消費者として当然の権利を主張するクレーマーになります。
教育は世界間で競争にさらされ、そのために日本の上位の大学は国に散々あおられて、世界ランキングを上げるために資金が投下されようとしています。ラヴァル教授が特に批判していたのがOECDのPISA(学習到達度調査)です。
このツールによって、各国の教育成果が比較可能になりました。世界大学ランキングも同様です。こうしたグローバルな評価基準が一種の規範となり、一国の教育の中身を決定してしまう。自国の教育のあり方よりも、世界基準の方が重視されていきます。
高等教育の世界市場が誕生しつつあるなかでは、米国の有名大学が有利です。エリートのグローバル化が進みます。教育の経済競争がすでに起きているのです。なぜなら、知識の役割が増大しているからです。
グローバルな競争力はイノベーション勝負になっている。今や競争力があらゆる国家の至上命題です。こうして、教育システムの根本的転換が起きているとラヴァル教授は言います。しかし、これを反グローバリゼーションの立場から批判するだけではなく、 「こうした変化を事実として受け入れるしかない。過去を美化してもしょうがない。教育は歴史によって変化してきたのだから」 と、結構身も蓋もないオチで講演は終わりました。
私たちが教育改革を論じるとき、常に考えておかないといけないのは、教育に過剰に崇高な理念を持たせるべきではないということです。
明治以降の日本の教育は国民国家にふさわしい人材育成だったのですから、今に至るまで基本は「富国強兵」です。さすがに戦争はもうしないでしょうが、現代の強兵がグローバル人材であることは明白です。そうした中で、今、経済的に勝ち残れる人間を作るために、世界中の教育が動いています。日本も同じです。