こんこん。
次に入ってきたのは、キリコさんよりもちょっと年下? くらいの女性だった。え? 特徴? ん——何と言うか。丸っこい人。
「あんたが新くん? よろしくっす、高木でーす」
人懐っこい雰囲気はある。が何というか、何より印象は「丸」。まん丸い顔に茶色いショートヘア。顔のパーツは個々に見れば整っているのかもしれないけど、巨大な頬の肉が目を圧迫して完全に糸目となっている。
どすん。高木さんが正面の椅子に勢いよく座った。
「じゃあいくつか質問させて貰うっすねー。楽器は何ができるんだっけ?」
「一応ギターとヴォーカルやってました。そんなに凄いテクニカルな演奏はできないですけど」
「あーいーの、いーの。とりあえず楽器が弾けるのが大事なんだ。じゃーギターは大丈夫ね」
高木さんは手に持ったバインダーに次々とチェックをつけている。何か駅前でアンケートの人に捕まっちゃったみたいだ。
「作曲はやってたんだっけー? DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション、音楽を制作するためのソフト)は何使ってるの?」
「今はSANOR使ってます。やってたのは生のスリーピースバンドなんですけど、曲作ってみんなに聴かせるときにはドラム打ち込みでデモ作ってました」
「あーそうなんだー。じゃー機材とかの話を聞かれても一応は大丈夫そうだね。んー、まあ十分かな?」
何が「十分」なのかわからないけど、とりあえずは悪い印象を与えてはいないみたいだ。
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