大通りを離れると店頭でがなりたてる音楽は少しマシになった。でも街のカオス度はますます増していった。きっと香港の屋台ってこんな感じなんだろうなって思わせるような(もちろん香港には行ったことないけど)、店先に何でもかんでも並べているパソコンショップがあるかと思えば、うっすらと茶色に煤けた古いパソコンが店頭に無造作に積み上げられている店もある。パソコンって精密機械だったはすじゃなかったっけ? なんか聞いたことない名前の牛丼屋もあるし……。
「お昼は食べてきたんでしょ?」
「あ、はい。静岡駅で食べてから来ました。東京まで近いんですよ、意外に」
牛丼屋なんて視線で追っていたからおなかが空いてると思われたんだろうか。
「そう。そういえば新くん、あれ知ってる?」
キリコさんはPCショップの店頭モニターを指さした。画面にはCGで描かれた少女が踊っていた。青色の長いツインテールが踊りに合わせて揺れている。他のスピーカーからの音に混じってはっきりとは聞こえないが、四つ打ちのテクノ系ビートに乗っているのは少しのっぺりした機械的な女の子の独特な声。オートチューンか何かのエフェクトがかかっている、ところどころケロケロしている。
「はい。妹が好きでよく聴いてますよ。『神音キク』ですよね?」
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