「いい音」ってどんなものですか?
Q. 曽我部さんの曲の歌詞には「夜」や「夏」など時間を感じさせる要素が多いですよね。私たちも時間というテーマに興味があり、「Life Stripe」などの作品も作っているので、曽我部さんが時間というものをどう捉えているのかもお聞きしてみたいです。
曽我部:時の流れというのはいいですよね。必ず冬になり、夏になる。夜が来て、朝が来る。これくらい信頼できるものはないし、「夏が来たなぁ」とか「夜になったなぁ」とかそういう歌しか歌いたくないなと思うんです。その中に「あの子が好きだ」とか「友だちは何してるのかな」という不確かなものが混ざってくるような感覚ですね。
Q. 音楽というのは、僕らがやっているデザインとは違って、同じ曲をライブで何回も演奏したりするのも面白いなと思います。同じ曲なのに常に感じ方は変わっていくし、形がなく、聴く人の感覚によって変化していくというのは音楽の素敵なところですよね。
曽我部:僕自身、同じ曲でも時期によってだいぶ変わりますからね。特に歌というのは、その人が住んでいる国の言葉で歌われるものだし、意思や思いとか余計なものが色々つめ込まれているものだから、なおさらそう感じるのかもしれないですね。
Q.デザインの仕事をしていると、「いい色」というものがあるんですね。でもそれは言葉では上手く説明できないから、理解できない人にはなかなか伝えづらい。色には凄いパワーがあって、色だけで人の感情を動かすようなことができないかなと思っているんですが、音楽もそれに近いところがありますよね。言葉にはできない「いい音」というものがある。
曽我部:僕にとって「いい音」というのは、「好きな音」とか「想像力が働く音」というものとは違って、そのままの音が良いということなんです。例えば、ライブの時なんかは、ギターそのものが出す音をそのまま聴いてもらえる状態に近づけるように意識しています。マイクのケーブルひとつとってもメーカーによって全然違って、音をきらびやかにしてしまうようなものもあるんですが、なるべくフラットで原音を忠実に表現してくれるものを使うようにしています。自分が音を作る場合は、メチャクチャ汚い音に加工したりするのも好きなのですが、コンサートではそこにいる人の声がちゃんと届いていることが大事だと思っています。だから電源なんかも、電圧の安定した医療用のものを自分たちで持ち運んでいるんです。もはや変態ですよね(笑)。
Q. 突き詰めていくと変態になっていきますよね(笑)。私たちもピンクひとつとっても、「あっちが良い」「こっちの方が良い」と周りにイライラされながら選んだりしています。周りからしたら何も違いがわからなかったりするんですけどね。
曽我部:でも、それがなくなってしまったら終わりですよね。現代社会ではどんどんそういうものが排除されていて、受け取る側はそれでもいいと思いますが、作り手がそのこだわりを捨ててしまったらもうダメかなと思うんです。
Photo: Takumi Ota
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