西満里衣[12:49]
……来た!
JR中央線中野駅、下りホーム。それにしてもホームが多い。なんで八番線まであるのよ。大きすぎるわ、東京ったら! そのくせエレベータがないなんて!
オレンジ色の車両がすべりこんでくる。十二時四九分三十秒。微妙に早い。いいえ、ひとつ前の電車が遅れてるのかも。としたら次の電車ってことになるけど。
降りてくる乗客を観察。狭いホームを、昇降口と駅員事務所がさらに狭くしてる。視界が効かない。おばさん、おばさん、おじいさん。やっぱり東京は人が多い。けど高校生男子らしき者はいない。白のダウンジャケットも。ノブさんの情報、間違いないはず。でも、もしも間違ってたら? 白のダウンじゃなかったら?
男子高校生(それとも大学生?)、発見。ホームの東端。でも、違う。あんな大男じゃない。それに二人連れだ。凸凹コンビ、大男とメガネの。徳永はメガネかけてない。瞬きして記憶をリフレッシュ──あのホームページの個人データ、身長一七一センチ、体重五五キロ。どこだ? どこにいる?
降りてこない。乗るべきか?
車両に近づく。車掌が半身を出したまま、わたしを危なっかしそうに見つめてる。乗って探すか。でも、この電車じゃなかったら。わたしが乗ると同時に降りて来たら。
どうする?
この電車か、それとも次か? 白のダウン、見当たらない。赤いジャケットが数人だけ。どっちだ? まだ車内にいるのか? 次の電車か? 二つにひとつ!
──いた!
徳永準[12:50]
中野駅の降り口は端にあったと思ったけど、あれは東西線のほうだったのか。まあいいや、そんなに急いでるわけじゃないし。電車が止まる。ドアが開く。おばあさんたちを先に行かせて、ぼくはゆっくりと下車。
人混みは、まだそれほどでもない。車椅子の女の子がいる。迷ってるみたいに、あちこち見回してる。どうしたんだろう。助けてあげたほうがいいかな。駅員は……見当たらない。ボクは彼女のほうへ近づく。細いピンク縁の眼鏡、ポニーテイル、藍色のコート。こっちをふりむいた。
鋭い目つき。
と、その時、誰かが叫んだのをぼくは確かに耳にする。
「……徳永!」
西満里衣[12:50]
徳永、ホームの東端! 凸凹コンビのすぐ近く。わたし、ホームの真ん中よりちょっと東より。距離、十五メートル弱。
──つかまえられる!
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