笹浦耕[12:37−12:44]
で、そのあと〈トウコ〉さんからメールが来たわけですよ。西のやつが東西線で追跡中って。
「……中野でつかまえるって、まじすか?」
『はいそうです。マリエさんがそろそろ到着している頃かと』
「一人だけ? 中野って、けっこーデカい駅ですよ。新宿にいる、えーとなんでしたっけ」
ちなみにオレ、いつのまにか〈トウコ〉さんには敬語になってました。だってしょーがねーじゃん。もっと年上かと思ってたんだもん。
オレ、年上の女性には優しいタチなのよ。
『トオルさんたちとは、連絡がつかなくなっています。こちらからはノブさんが移動中ですが、間に合いますかどうか』
「西荻窪から中野つったら……」えーと中央線でいくつめだっけ。西荻窪、荻窪、阿佐ヶ谷、高円寺、東高円寺──は丸ノ内線だっつーの。高円寺の次が中野だよ。「……なんとかなるんじゃないすか?」
『はい。本来でしたらそうなのですが、あいにくと』
「あいにくと?」
しのぶさんのいる部屋のドアが開いたのは、その時だった。
例の風邪ひいてる妹さん……ミユちゃんだかユミちゃんだかが、パジャマの上からピンクの毛布かぶったまんま、そーっと廊下横切って、トイレ入ってすぐ出てきた。
オレ、ソファから軽く会釈。
彼女は顔真っ赤で、すげー恥ずかしそうにお辞儀を返した。そらそーだ。トイレだもん。にしても痩せてんなあ。風邪が胃腸に来ました、ってやつですか。ご養生なさってくださいませ。
「あいにくって、なんかあったんすか……あ、ちょっと待ってください」
『え?』
風邪ぎみの妹さん、なぜかこっちに近づいてきた。手にメモもってる。
スヌーピーのメモ用紙に、かわいい丸文字で。
事情はだいたい聞きました。
早めに姉とデートに出かけたいなら
協力できますけど、どうでしょう?
おおっと。
これは意外な展開。
妹さん、唇に指あててから、部屋のほうを指さした。しのぶさんに聞こえちゃまずい、ってことか。というわけでオレ、メモに書いて返事。
ぜひお願いしたいですけど
なんでまた?
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