枯野透[12:32−12:33]
「……目撃情報!」
僕は叫んだ。アキホさんが驚いてこっちを見た。
閉園中の新宿御苑、インフォメーションセンター前で、僕の裏返った声が反響する。寝不足ぎみの脇役が発したにしては上出来だ。
「ええと……
『誰からって?』
「アイさん。愛情のアイ。知らない人?」
『聞いたこともない』〈ノブ〉の
「あ、待った。画像あるんだった」
『ええぇ?』
「徳永の画像かも。僕のは写真見れないから、そっちに送らせる」
『いいけどさ、そんな知らない相手から──』
いっぺん切って〈愛〉さんにメールしたら、すぐに〈ノブ〉から電話がかえってきた。
『……マナちゃんっ!』
「?」
『オサリバン
「知らない人じゃなかったのか?」
『グラビア・アイドルだよ! 今いちばん面白くて、かわいくて、すげえ売れ始めてて!』
「……なんだよ『面白いグラビア・アイドル』って」
青木さやかの写真集みたいなもんか。それともすごいセクシーな現役女子高生が、水着姿で落語や
駄目だ、ほんとに寝不足かも。
『なに、枯野、まじ知らないの?』
「だからわかんないって」
『枯野んとこって、テレビ見ない家?』
「あんましね」うちの母さん曰く、テレビは家族の団欒を破壊する悪魔の機械なんだそうだ。「NHKのニュースくらいかな」
『深夜放送は?』
「ほとんど」
『なんで? 勉強で忙しいとか? 部活?』
「いやべつにそういうわけでは」
『雑誌のグラビアとか、写真集とか、DVDとかは』
「うち、DVDプレイヤーないから」
『…………』
「もしもし?」
『ありえねえよ枯野。それは。ほんとに。まじで』
はあそうですか、そりゃどうも。
〈ノブ〉君的にはこの世に存在していないことになった僕は、隣のアキホさんに『心配ないから』という仕草をして、会話を再開した。
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