パート4.キャッチャー・イン・ザ・ステーション ​枯野透[12:32−]

自殺予告メールがきても、あたしは何もしなかった。薄情な人間だから? それがいちばん当たっているような気がする――とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすすめ文庫王国2009』でライトノベル部門の堂々1位を獲得した『15×24(イチゴーニイヨン)』シリーズを2巻まで連日更新。読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉を味わってみてください。(イラスト:箸井地図)

枯野透[12:32−12:33]

「……目撃情報!」
 僕は叫んだ。アキホさんが驚いてこっちを見た。
 閉園中の新宿御苑、インフォメーションセンター前で、僕の裏返った声が反響する。寝不足ぎみの脇役が発したにしては上出来だ。
「ええと……あいって人から! JR中央線飯田橋駅下りホーム、二分前!」
『誰からって?』
「アイさん。愛情のアイ。知らない人?」
『聞いたこともない』〈ノブ〉のいぶかしげな声。『ほんとに確かな情報、それ? なんかさっきから、よくわかんない奴らから変なメールいっぱい来てんぞ』
「あ、待った。画像あるんだった」
『ええぇ?』
「徳永の画像かも。僕のは写真見れないから、そっちに送らせる」
『いいけどさ、そんな知らない相手から──』
 いっぺん切って〈愛〉さんにメールしたら、すぐに〈ノブ〉から電話がかえってきた。
『……マナちゃんっ!』
「?」
『オサリバンマナ! これ、これ、この写メの子! 愛ちゃんじゃんかなんでだよ生写真かよすげえどこでどうして!』
「知らない人じゃなかったのか?」
『グラビア・アイドルだよ! 今いちばん面白くて、かわいくて、すげえ売れ始めてて!』
「……なんだよ『面白いグラビア・アイドル』って」
 青木さやかの写真集みたいなもんか。それともすごいセクシーな現役女子高生が、水着姿で落語や水芸みずげい南京玉簾なんきんたますだれをするんだろうか。んなアホな。いや、それはそれで「あり」かもしれないぞ。水着で落語。二十一世紀だしなあ。
 駄目だ、ほんとに寝不足かも。
『なに、枯野、まじ知らないの?』
「だからわかんないって」
『枯野んとこって、テレビ見ない家?』
「あんましね」うちの母さん曰く、テレビは家族の団欒を破壊する悪魔の機械なんだそうだ。「NHKのニュースくらいかな」
『深夜放送は?』
「ほとんど」
『なんで? 勉強で忙しいとか? 部活?』
「いやべつにそういうわけでは」
『雑誌のグラビアとか、写真集とか、DVDとかは』
「うち、DVDプレイヤーないから」
『…………』
「もしもし?」
『ありえねえよ枯野。それは。ほんとに。まじで』
 はあそうですか、そりゃどうも。
〈ノブ〉君的にはこの世に存在していないことになった僕は、隣のアキホさんに『心配ないから』という仕草をして、会話を再開した。

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15×24(イチゴーニイヨン)link one せめて明日まで、と彼女は言った

新城カズマ

「なんで自殺しちゃいけないの?」とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすす...もっと読む

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