パート4.キャッチャー・イン・ザ・ステーション ​笹浦耕[12:09−]

自殺予告メールがきても、あたしは何もしなかった。薄情な人間だから? それがいちばん当たっているような気がする――とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすすめ文庫王国2009』でライトノベル部門の堂々1位を獲得した『15×24(イチゴーニイヨン)』シリーズを2巻まで連日更新。読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉を味わってみてください。(イラスト:箸井地図)

笹浦耕[12:09−12:29]

 というわけで、電話しましたよ電話。
 まずは〈トウコ〉さんにメールで電話番号聞いて、かけて、最新情報おそわって。あとは同じ手順でカラノ・トオル(こいつは新宿御苑に移動中)と、伊隅(いつのまにか参加してて、今は仲間といっしょに西荻窪にむかってるらしい)に連絡。
 おかげでいくつか謎が解けた。たとえば、午前九時に徳永のド阿呆の身にふりかかった予定外の事態は何だったか、とかね。
 あいつケータイ落として、そん時まちがって送信しちまってんだ。まだ書きかけのメールを。カラノ&アキホの話を総合すると、よーするにそういうことらしい。なんちゅートロいやっちゃ。

 で、最後に長距離を一本。
「よう。杏奈」
『よう。おにいちゃん』
 長野県某所のケータイ、半年ぶりの声。変わりなさそうだったんで、オレちょっとだけ安心。
「いま、電話いいか?」
『うん。ママ、夕方まで本町のおばさんとこだから』それから小声になって、『なんかあったん?』
「なんで」
『年あけてからかな、って思ってたから。次の電話かかってくんの』
「まあな」
『心配ごと? 緊急ごと?』
「緊急ごと。どっちかってーと」
『わかった。じゃ聞かして』
 オレはこれまでに起きたこと、わかってることをぜんぶ話した。
 ──徳永のド阿呆のこと。書きかけの遺書メールのこと。いろいろあったあげく、〈捜索隊〉ができたこと。在所の家捜しのこと。地図が見つかったこと。〈17〉ジューナナとブログの書き込みのこと。タイムリミットが午後九時になったこと。でもってオレが正義の義侠心ぎきょうしんを発揮して、大事な友人の自殺を止めるべく立ち上がったこと。
 いや、だってさ、しのぶさんをギューッでスパーンのために、なんて言えねーでしょ。相手は妹ですよ、妹。
 つっても、杏奈のやつも信じてなかったみたいだけど。義侠心云々てとこは。
 そらそうだろうなあ。
「……で、在所によれば〈マーチ〉は狂言自殺だってんだけど、〈トウコ〉さんの説だとネット心中らしいわけ」
 杏奈のやつは、ひとっこともしゃべんなくてじーっと聞いてて、ようやく言った一言が、
『ふーん』
「なんか質問ある?」
『うーん。まだない』
「あっそ」
 べつに杏奈のやつが(オレみたいに)他人に無関心だとか、とくべつ冷酷な性格だとか、そういうことじゃないよ。いっとくけど。
 これ、よーするに、儀式みたいなもんなんだ。
 いつからなのか、はっきりいってあんま憶えてない。でもオレと杏奈のあいだでは、とにかくそういうことになってた。
 定期連絡は平均数か月にいっぺん。でも、何かあったらいつ電話してもいい。臨時の連絡は『心配』か『緊急』か。『心配ごと』なら、とにかくいろいろ無駄口はさんだり、どーでもいいような最近おきた事を話して、相手を安心させる。『緊急ごと』は本気で急ぎの事態で、考えをまとめたい時だ。そういう場合は、一方に勝手に話させといて適当に相づちをうつ。
 壁打ちってあるでしょ、テニスの練習とかでさ。ひとりでやってるだけなんだけど、単に素振りとかやる以上の運動ができてる。壁は単にそこにあるだけで、何かしてるわけじゃねーんだけど、ちゃんと役にたってる。
 ああいう感じね。よーするに。
 会話ってのは、情報を交換するためだけに存在するもんじゃない。話し相手ってのは、そういうんじゃない。なんとなくそこに居てほしい。迷ってる時とか悩んでる時とか、壁みたいに黙って居てくれるだけで安心できる。そういう場合だってある。
 あるもんだとオレは思ってる。

 で。
「よーするに今晩九時までに、どっちか捕まえられりゃ、オレとしては満足なわけよ」
『どっちか?』
「徳永のド阿呆か、心中相手のジューナナか。そーすりゃ少なくとも心中はできない」
『そのトクナガさんて人が、しびれ切らして一人で自殺しちゃったら?』
「しねーって。だってあいつは……」
 うん。そーだ。
 その瞬間、とつぜん確信できた。
 あのド阿呆は、ぜったいに、ぜっったいに、ひとりでは自殺しない。
 それはもーほんとに、太陽が東から昇ったり、水が低いとこへ流れ落ちたり、渋谷駅前に排ガスがたまったり、うちの親父がロマンチストだったりするのと同じくらい、確実なことだ。
 なんでかって?
 だってオレ、思い出したんだ。
 あいつ、徳永のド阿呆。一年の春、部活の初回ミーティングのあと、先輩につれられて学校のすぐ前のファミレスで晩飯食った時だ。《浪漫亭ろうまんてい》ってとこ。禁煙席が満杯になってて、バイトのねーちゃんが困った顔になって、映像班と造形班は三鷹の駅前に流れることになった。で、オレはたまたま絵画班のほうに残った。飯食いながら、みんな将来どうすんのみたいな話題になって、あいつが自分は医学部志望ですっつって、誰かが「なんで?」って聞いた時の答え。なんだったと思う?
 ──だって、見ず知らずの人を助けることができるんだよ。これ以上のことなんて、ないよ。
 いや、まじで。
 そんでオレ、すげーむかついたんだ。
 なんで? 知らねーよ。つーか、わかんねーよ。とにかくそん時、むかついたんだってば。
 で……そうそう、だんだん思い出してきたぞ……オレ、いろいろツッコミいれたんだよ。だったらべつに弁護士でも政治家でもいーじゃん、とか。自分の命とひきかえでも赤の他人助けんのかよ、とか。
 そしたら、
 ──できるなら、そうするよ。
 とたんに禁煙席、とっても白けたムード。なんでって、そりゃもちろん、みんな理解できたからだよ。理解しちゃった、てのかな、むしろ。つまり徳永のやつが、ほんとに本気なんだってことをさ。
 できるなら、そうする。
 チャンスさえあれば。自分の命を捨てることで誰かを救えるものならば。あいつは必ずそうする。あの大馬鹿くそ真面目野郎は。
 そうだ。
 オレ、ピンときた。
 あいつ。
 人助けのつもりで心中につきあおうとしてんじゃねーのか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『……あのさーおにいちゃん』
「んあ?」
『ちょっと思ったんだけど。心中殺人ていう可能性、考えてみた?』
「心中殺人?」

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15×24(イチゴーニイヨン)link one せめて明日まで、と彼女は言った

新城カズマ

「なんで自殺しちゃいけないの?」とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすす...もっと読む

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