パート4.キャッチャー・イン・ザ・ステーション 笹浦耕・伊隅賢治・三橋翔太[12:09]

自殺予告メールがきても、あたしは何もしなかった。薄情な人間だから? それがいちばん当たっているような気がする――とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすすめ文庫王国2009』でライトノベル部門の堂々1位を獲得した『15×24(イチゴーニイヨン)』シリーズを2巻まで連日更新。読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉を味わってみてください。(イラスト:箸井地図)

笹浦耕[12:09]

 やたっ!
 ただいまワタクシこと笹浦上等兵、しのぶさんのマンション内に潜入成功いたしましたっ!
 扉が開いて……室内、夢にまで見た女子大生の室内であります、全国の皆様!
「電話、TVの横にあるからね!」
 とだけ言ってしのぶさん、ぱっと寝室に隠れちゃった。ドアの、目の高さぐらいんとこに『MIYUHO』ってファンシーな切り株風プレートつき。妹さん、ミユホちゃんてんだ。へー。
 てことは、もういっぽうの部屋が……おお、寝そべるスヌーピーの下に『SHINOBU』。いいねえ〜。ノブに花柄模様のカバーかぶせちゃったりなんかして。さっそく回してみましょう。
「コーくん!」扉のむこうから大声。
「はい、なにか?」
「キミの考えなんぞ、はなっからお見通しだよ! そこ開けたら絶交だからね!」
 へいへい。

 えー、しのぶさんの名誉のために言っとくと、洗濯物はちゃんと片づけてありました。たぶん直前に。TVの裏にストッキング一本落ちてた他は、何もなし。
 ちなみに部屋ん中は、とにかく全般的にかわいい。あちこちレースとか、小物入れとか、ちっちゃい額縁とかね。
 いちおう説明しとくと、玄関の前が細くて短い廊下で、左右は今いった寝室×2と洗面所のドア、正面がLDK。かなり良さげな物件であります、全国の皆様。窓はレースのカーテン、眺望良し、壁に子猫のポスター、その下に薄型TVにパソコン、でもってガラスのテーブル、ガラスの棚、ハーブキャンドル、薄紫のふかふかソファ、右の奥がちょっとしたカウンター越しにキッチン。冷蔵庫は両開き。あれ便利なんだよな。
 それになんつっても、良い匂い! なんつーの、焼きたてのパンケーキと砂糖菓子とバラの花束をミックスして、さらに『優しさ』と『乙女心』をぶっかけた感じ? ってもう何言ってんだか自分でもわけわかんねーけど、そんくらい凄い。やっぱ女性は違うぜ。ほんと。まじで再婚しろ親父。再婚を。
 えーと。なんだっけ。
 あそうか、オレ電話借りに来たんだったわ。

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伊隅賢治[12:09]

〈トウコ〉からのメールが届いた直後、ボクはすぐさま徳永のブログを見にいった。
 なんていう手抜かりだ。ここも見張っておくべきだった。いや、むしろ幸運なのか。そうだ。まさかこんなところで徳永のやつと〈17〉が会話をするなんて、絶対に思いつけないことだ。どうしてメールで連絡し合わないんだ。どちらかのケータイが壊れたのか。そうか、そう考えれば辻褄つじつまも合う。あのコンビニにかけこんだ理由。ケータイが壊れたから、やつはネットに入れる店を探そうとしてたんだ。おかげでこっちはえらい目に遭った。まあ、それはいい。
 それよりも問題は、これからのボクの〈計画〉だ。
 おおよその方針は決まっていた。ミツハシを活用して、〈捜索隊〉を妨害する。できれば分解・活動休止にまで追い込む。最低限、徳永のいなさそうな場所へ彼らを誤誘導する。そうすればボクの目的の邪魔にはならない。
 ミツハシをコントロールするのに、どう説明するのが最適だろう。できるだけ安全で、しかも確実な動機づけ。そうだ。動機だ。すべてはそこに帰着する。
 ボクは、ボクの頼もしい獣にむきなおる。
「ひとつ聞きたいんだけど」
「なんだ」
「どうして、徳永に会いたいのさ」
「──」獣はしばらく答えない。「言いたくねえ」
 これではお話にならない。どうやって探るべきか。あいにくハードボイルドものはあまり読んだことがない。こういう人種を相手にした時、どこをどう操作すれば動いてくれるんだろう。ボクはこれまでに観た映画のなかから、つかえそうな情報を総動員する。
「それじゃあ話にならないね」できるだけ低い声で僕は言う。「いいか。これは男と男の話し合いだ。腹を割って話そうって言ってるんだ。おまえの目的がなんであれ、それさえ聞けたらボクは最後までつき合ってやる。ボクも自分の目的をおまえに話すし、それでおまえがついて来ようがやめようが、関係ない。ボクは最後まで自分の目的のために動く。それだけだ。男の言葉の重みってのは、そういうことだ」
「…………」
「どうする?」

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15×24(イチゴーニイヨン)link one せめて明日まで、と彼女は言った

新城カズマ

「なんで自殺しちゃいけないの?」とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすす...もっと読む

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