枯野透 [12:08]
目が覚めたら、一時間も経ってた。
「……ねっと・しんじゅうぅ?」
「ええ、はい。なんじゃないかって」
アキホさんが、困ったふうに小首をかしげて微笑む。これが白百合風の笑いってやつなんだろう。僕はマックのテーブルに突っ伏した。
なんてこった。
探す相手は、これで二人になっちゃったわけか。運命にしては、あまりにも睡眠時間の足りない展開だぞ。
ふと、嫌な予感がする。僕が関わる相手は、ほんとにこの二人でおしまいなんだろうか。いや、今朝のサラリーマンから数えたら三人目じゃないか。アキホさんを含めれば合計四人。この大晦日の二十四時間のうちに、最終的に僕はどれだけの赤の他人を助けてまわることになるんだろう?
──ちなみに、そのアキホさんといっしょに紀伊国屋の前でおこなった現場検証は、なにひとつ成果がなかった。
それどころか、かえって疲れと空腹を自覚してしまって、すみません、ちょっとどっかで休ませてくれませんか、と僕のほうが先にギブアップ。まったく良いところなしだ。たどりついたのは、近くのマックの二階席。唯一の救いは、禁煙席があったことぐらい。
僕は、もういちどケータイを見る。
マリエさん発、トウコさん経由の重大発表が
「……年越し蕎麦には間に合うから、いいか」
「え?」
「あ、いや、こっちのこと」
いかんいかん、そういう問題じゃないんだってば。人の命がかかってるんだぞ。
候補地は、六か所。ただいま現在〈捜索隊〉に確実に参加してるのは総勢九人。例のイチ・トウコさん、移動中のマリエさん、
あいかわらず左右田がつながらないので、トウコさんにメールしてみる。やっぱり同意見だ。
件名:新宿御苑をお願いします
こちらでもただいまその点につい
て対策を思案中です。もし、お二
方が動けるようでしたら、とりあ
えず新宿御苑へむかってください
。何かありましたらまた連絡いた
します。
「御苑を見張ってて、だってさ」
「そうですね」
アキホさんが、さっと立ち上がる。きびきびしてるところは、あんまりお嬢さまらしくない。こっちも負けちゃいられないぞ。
「そうだ、ところで」
「はい?」
「……どうしてこのメールが届いた時、すぐ起こしてくれなかったの?」
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