パート4.キャッチャー・イン・ザ・ステーション ​西満里衣[11:36−]

自殺予告メールがきても、あたしは何もしなかった。薄情な人間だから? それがいちばん当たっているような気がする――とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすすめ文庫王国2009』でライトノベル部門の堂々1位を獲得した『15×24(イチゴーニイヨン)』シリーズを2巻まで連日更新。読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉を味わってみてください。(イラスト:箸井地図)

西満里衣[11:36−11:44]

 TXこそ、人類文明の勝利!
 と思わず叫びそうになるくらい。ああTX。愛しのつくばエクスプレス。山手線まで守谷駅からたったの三〇分強、茨城南部を貫通する銀色の弾丸、深紅のストライプ。しかも車両内はインターネット環境完備。
 まるで今のわたしのために創られたような乗り物じゃないの!
「よっし!」
 十一時三十六分発、区間快速秋葉原行き。手伝ってくれた乗務員さんにお礼を言い、車椅子をたたんで着席するや否や、わたしはデータの海へダイブした。
 愛用のノートが目をさます。青い光、リンゴのマーク。
 背筋がゾクゾクっとする。
 今この瞬間から、わたしは万能の探索者だ。無意識のうちに、わたしはいつもの呪文を唱えてる。情報は力。知識は責任。届かなければ、気づかせろ。ランス・アームストロング曰く、やってできないことは無し、やらずに出来ることも無し。
 まずはトウコさんにメール──無事に乗れました、これからお尋ねの件など調べてみます。反転して、検索ググるのを開始。
 徳永準/東京/私立成風館せいふうかん高等学校。出た。高校の紹介サイト、部活のページ、部員紹介。各自のブログにまでリンクされてる。超高速ブラインド・タッチの下で、ディスプレイが身をよじらせる。携帯よりもキーボードのほうが何倍も速くて楽だ。毎分百二十文字、情報マシンガンの一斉掃射。さっさと反応しなさいな、わたしの愛機!
 あった。これだ。
 徳永準。四月二七日生まれ、十七歳、血液型OのRh+。
 身長一七一センチ。体重五五キロ。東京生まれ、現住所は西荻窪。趣味、読書と映画と『ER』。音楽はラルク、部活は美術部。尊敬する人物はシュバイツァー博士と野口英世。嫌いなものは急ブレーキの音。
 わたしの指が、わたしの判断が、彼の人生哲学を光の速度で剥がしてゆく。あんたが何者か判ってるわよ、わたしは心の中で叫ぶ。あんたのデータ)>はお見通しよ。死にたいですって? ふざけるんじゃないわよ。家族の身にもなってみなさいよ。命は自分だけのものじゃないのよ。生きたくって生きたくて、でも死んでった人はたくさんいるのよ。わたしは運良く死ななかっただけなのよ。あの病院でリハビリしてるあいだ、仲良くなれた子たちの半分は、もうこの世にはいないのよ。
 だから今、止めてやる。
 あんたのことを止めてやる。
 トウコさんから『地図』のことは聞いた。候補地は六か所。サイコロの確率だ。そんなもの、わたしの指で突破してみせる。あんたの居場所を割り出してやる。あんたの思考を解剖して、あんたの運命を読み切ってやる。
 徳永の日記。今年の春から九か月分。
 分量、そんなに多くない。どんどん減衰してゆく書き込みの量。典型的な「ちょっと試しにやってみました」タイプだ。読んだ本の感想、クラスメートとのちょっとした会話、たまってゆく疲労。真面目さが地層さながらのしま模様をつくってる。誰にも読まれないだろうと思って書かれた、ぶつぎりの文章。おあいにくさま、わたしが読ませてもらってるわよ。
 全文を検索。六か所の候補地、どれも出てこない。あてはずれ。でも諦めない。どこかにヒントがあるはずだ。リンク先、画像、コメント。何もなし。リンクは学校と友人関係だけ。画像は春の校庭と部室の写真。コメントは、最初の一週間ぐらいに部活の友人たちと挨拶しあっているだけ。新宿御苑もサンシャイン60も、まるで顔を出さない。どうしよう。他をあたるか?
 わたしは画面左の項目別表示をもういちど確認する。
 最新のエントリー、今年の夏。最新のコメント。今日だ。
 ……え? 今日?

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15×24(イチゴーニイヨン)link one せめて明日まで、と彼女は言った

新城カズマ

「なんで自殺しちゃいけないの?」とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすす...もっと読む

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