パート3.せめて明日まで、と彼女は言った 笹浦耕[11:30]徳永準[11:30]

あたしは直感する。明日の夜明けまでに、どちらかがこの世を去るだろう。あたしのおばあちゃんか、もしくは同級生の徳永か――とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすすめ文庫王国2009』でライトノベル部門の堂々1位を獲得した『15×24(イチゴーニイヨン)』シリーズを2巻まで連日更新。読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉を味わってみてください。(イラスト:箸井地図)

笹浦耕[11:30]

 で、どこに出かけたかって?
 そこですよ、問題は。
 東京はデカい。いやほんと。まじで。軽くやばいくらいに。っていう言い方、最近流行ってるっていうけど、あんま聞いたことないよオレ。
 それはともかく。
 相手はたった一人の死にたがりだ。で、東京は人口一千三百万。まわりも含めると三千五百万。いや待てよ、なにも徳永のド阿呆が都内で死ぬかどうかも決まってないんだぞ。てことは、国内一億三千万の中から見つけるって作業じゃないのか、これは?
 ブー。はずれー。
 そんな大げさに心配する必要、あ〜りませ〜ん。体力を消耗する必要も、な〜し。
 肝心な〜のは〜、電話をかけることで〜す。

 ──戸締まりして、ケータイを振動にして、ウォークマンのスイッチ入れて(曲は最近お気に入りのスキマスイッチ)、鼻歌でメロディラインを追いつつ、ドアの鍵。
 をかけようとした時、オレなんか忘れてるような感じがした。
 ほら、出かける前ってそういう時あるでしょ。ぜったい持ってかなきゃいけねー何かを部屋に置きっぱなしにしたままでさ。いざ出る時に、うーん何か忘れてるような、でも何だっけ、どうしても思い出せませーん、みたいな。
 それによく似てた。けど、ちょっとだけ違った。
 オレは何か忘れてる。何かを思い出そうとしてる。だけど、今すぐにここを出なくちゃやばい。
 ひどく大切なことがあって ・・・・・・・・・・・・オレはそれをこの高層住宅の中に置きっぱなしにしてて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・でもそれを取りに戻っちゃいけない・・・・・・・・・・・・・・・・一刻も早く出発しなくちゃいけない・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……なんじゃそら。アホか」
 自分で自分をコケにしながら、オレはエレベータに乗り込んだ。──

 で、とにかくオレは電話があるところへ行きたかったんだ。
 家の電話つかえばいい? それに自分のケータイあんだろって? そうもいかねーのが世の中つらいところなんですよ。
 うちは、ケータイも家の電話も、料金は自分で払うことになってる。電話にかぎらず、昔からいろんなのがそういう方針だ。
 小遣いは無し。家の中で手伝いをして稼げ。高校生になったら外でバイトしろ。うちは金持ちでもないし、母親はいないし、だから料理も洗濯もなんでも自力で、みたいな。親が離婚する前はもうちょっと余裕があったような気も──でもねーか。悪かったね、うちの家系は昔から貧乏なんですよ。ずっと共働きだったし、今のマンションは三十年ローン。で、購入した直後に離婚。
 ……なにやってんだか、親父。
 ちなみにうちの親父、再婚する予定もなけりゃ、つもりもない。らしい。たぶん。
 息子のわたくしが推測しまするに、親父さま、そうやって何かのバランスをたもってるつもりなんでしょう。
 二度と妻は めとらない。息子は男手ひとつで立派に育てる。それが元妻や離ればなれになった娘への、せめてもの誠意の証しだ、みたいな。べつに訊いたわけじゃねーけどさ。いっしょに暮らしてりゃ、なんとなく分かるよ。
 つーか再婚したけりゃ、しろっつーの。
 オレの気持ちなんか無視してガンガンしろ。
 でもって美人で若くて料理のうまい義理の母をオレにくれ。もしくは美人で洗濯好きな義理の姉を二人ほど。いや、それはともかくとして。

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15×24(イチゴーニイヨン)link one せめて明日まで、と彼女は言った

新城カズマ

「なんで自殺しちゃいけないの?」とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすす...もっと読む

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