パート3.せめて明日まで、と彼女は言った 笹浦耕[11:25]伊隅賢治[11:26−]

あたしは直感する。明日の夜明けまでに、どちらかがこの世を去るだろう。あたしのおばあちゃんか、もしくは同級生の徳永か――とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすすめ文庫王国2009』でライトノベル部門の堂々1位を獲得した『15×24(イチゴーニイヨン)』シリーズを2巻まで連日更新。読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉を味わってみてください。(イラスト:箸井地図)

笹浦耕 [11:25]

 あ、またオレね。
 あのね、念のため言っときますけどね、オレ、インチキしようなんて考えてなかったからね。いや、まじで。
 だから支度して出かけたよ。あー出かけたともさ。
 そのへんの割り切りは早いほうなの、オレ。今晩しのぶさんをギューッて抱いてスパーンてやるためには(ごめんね、お下品な表現で──でも年頃の男子ってこんなもんなのよ)、徳永のド阿呆あほうを見つけて止めるしかない。他に選択肢はない。ないったらない。
 じゃあ行くしかない。
 だから、しのぶさんとの会話から三十分近くたってんのは、トーストの残り食い終わって、トイレいって歯ぁみがいて髪の毛いじって、もっぺんメールの山に目をとおして、メモとって、財布の中身がまじ少ねーのでがっくり肩を落として、それから必要そうな道具かき集めてたからであって、けっして「インチキしようかどうしようか」と悩んでいたためではあーりませーん。ニポンジンのミナサーン、人をムヤミに疑うのは悪いコトで〜すネ〜。神サマは〜、アーナタがたヲ〜、いつもミテいま〜す。
 って今のは、むかし知り合いだった神父さんの真似ね。いや、それとも修道士だったかな。まあいいや。ともかく、あの人、いい人だったけどさ。でもオレは信じてなかった。悪りーけど。
 見てるわけねーじゃん。神さま。
 つーか見るな。
 ほっとけ。

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伊隅賢治 [11:26−11:30]

〈捜索隊〉が活動を始めて、そろそろ二時間になる。
 首謀者は最初〈マーチ〉のほうだったけど、しばらく前から急に〈トウコ〉のほうが中心になってきた。なんでも〈マーチ〉のケータイの電源が切れているらしい。〈トウコ〉は(しかたがないので、リーダー代理として)これまでメールを返してきた参加者に対して丁寧な返信を続けている、という。ボクはしばらく考えてから、あまり目立たないような短い返信をしておいた。こうしておけば、むこうからの最新情報は手に入れられるだろう。この〈トウコ〉という人物は、かなり礼儀にうるさい性格のようだ。文面の雰囲気からすると、三十過ぎの独身女教師か、さもなければしつけの厳しい家の女子大生といったところ。もちろん実際のところは分からない。あまりにもお嬢さまっぽいので、かえって本当かどうか疑わしいくらいだ。
 今のところ〈捜索隊〉が把握しているのは、ほんの断片的な事実だけだ。徳永は自殺予告をした(いつのまにか文章が追加されていたけど、それはこの際大した問題じゃない)。徳永は最近元気がなかった(「そういえば」と「あの時はまさか」に挟まれた後づけの観測だ)。徳永の成績は下がっていた。徳永は苦しんでいる。徳永は助けを求めている。
 ボクは、彼らよりも少しだけ正確な事実を知っている。
 自殺予告は、彼の意図じゃない。
 彼は助けを求めてはいない。
 彼は独りで死のうとしているのではなく、ネットで知り合った相手がいる。
 そして彼の自殺を望んでいる者が、ここに少なくとも一人、いる。
 ──今のところ最大の問題は、ボクがすでに徳永たちを永遠にとり逃がしてしまったのではないか、ということだ。決行時刻が延期されたのはほぼ間違いない。では決行場所はどこだろう? 約八十分前までは、あいつは新宿東口にいた。今はどこにいる? あいつは、ボクのための『死』は、どこにいる?

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15×24(イチゴーニイヨン)link one せめて明日まで、と彼女は言った

新城カズマ

「なんで自殺しちゃいけないの?」とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすす...もっと読む

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