パート3.せめて明日まで、と彼女は言った 徳永準[10:21−]

自殺したがってる同い年の男子生徒のために割ける時間は……、三秒だね。なんでかって? しょうがねーでしょ。当人が死にたがってんだから――とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすすめ文庫王国2009』でライトノベル部門の堂々1位を獲得した『15×24(イチゴーニイヨン)』シリーズを2巻まで連日更新。読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉を味わってみてください。(イラスト:箸井地図)

徳永準 [10:21−11:15]

 このまま夜まで店の中で時間をつぶしてもいいか……と考えて、いちおう簡単な返事を書き込む。
 地下二階の書庫から『ジョジョの奇妙な冒険』の二十一巻から三十巻までを取ってきて──それより前のは別の人にすでに貸し出し中だったので──読み始めた。
 でも、そのうちやめた。
 面白くなかったわけじゃない。というか、かなり好きなほうだし、それどころか全巻買って持ってる──どこから読み始めても続きが読みたくなるから、勉強の息抜きには不便でもあるんだけど。
 だからそれは『ジョジョ』のせいじゃなくて……ただ、隣の席の人がちょっと気になったんだ。
 女の人で、OLにしてはちょっと派手な格好だ。二十代後半くらい。赤茶の毛皮のコートを椅子の背に引っかけて、赤紫のワンピースに尖ったハイヒール。くるくる巻き毛は金と茶の混ぜまぜ、ネックレスも同じような色合いで、アイシャドーの濃さと髪型のせいか、ぱっと見ではエジプトのファラオみたいな雰囲気。
 その人が、なぜかメールソフトを開いたまんま、マンガを読みながら半べそをかいてる。
 そんなに感動的な話なのかな……。ドリンク・バーへ行って戻ってくる時、ぼくはできるだけ何気ないふりをして、女の人の机に積んである本の表紙を盗み見てみる。
『少年は荒野をめざす』。
 きれいな表紙の少女マンガ。ねえさんたちの本棚では見かけたことのないタイトルだ。
 荒野をめざす……って、こんなタイトルの小説あったような気がするけど。もしかして小説をコミック化したんだろうか。
 棚にまだ残ってるなら、ちょっとぐらいは試しに……と思ったけど、最終巻までぜんぶ彼女の手もとに山積みだった。
 しょうがないので、ぼくは席に戻って『ジョジョ』の続きを読む。
 隣から、はな水をすする音と小さな咳の音だけがする。
 ぼくは『ジョジョ』に集中する。集中しようとする。ちょうど花京院かきょういんが一時リタイアしたところ。
 やっぱり面白い。
 ポルナレフ、またひどい目に遭う。ホル・ホース再登場。洟水の音が聞こえる。三代目ジョジョのパンチ炸裂。ゴゴゴゴゴゴ。もうバッティングの方はだいたいおぼえた。女の人のアイシャドーが崩れてゆく。バレなきゃあイカサマじゃあねえんだぜ。オラオラオラオラ。
 涙。
 アヴドゥル最期さいごの活躍。
 涙だ。
 さらばイギー。娘のためにできること、それは信じることです。涙が流れてる。無駄無駄無駄無駄。おれは『白』の中にいる。だけど涙は止まらない。ぼくのでも三代目ジョジョのでもなく、彼女の涙が。彼女?
 ……目が合ってしまった。

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15×24(イチゴーニイヨン)link one せめて明日まで、と彼女は言った

新城カズマ

「なんで自殺しちゃいけないの?」とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすす...もっと読む

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