パート3.せめて明日まで、と彼女は言った 枯野透[10:26]西満里衣[10:10−]

自殺したがってる同い年の男子生徒のために割ける時間は……、三秒だね。なんでかって? しょうがねーでしょ。当人が死にたがってんだから――とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすすめ文庫王国2009』でライトノベル部門の堂々1位を獲得した『15×24(イチゴーニイヨン)』シリーズを2巻まで連日更新。読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉を味わってみてください。(イラスト:箸井地図)

枯野透 [10:26]

 カプチーノを半分干したあたりで、アキホさんが唐突に悲鳴をあげた。
「電池、電池っ!」
「え?」
 さっきから僕たちは代わりばんこで問題の携帯をいじくりまわし、なにかヒントになる情報がないかと読んだりメモったりしている。文字通り、干し草の山から何とやら、だ。さっきまでに比べて、「どうしたんだよ?」「なんかあったの?」式のメールはそろそろ一段落だ。とはいえ、これまで積み重なった皆の善意の総量は、けっして簡単に読み終えられるものじゃないし、気軽に読み飛ばせるものでもない。
 そして──今、彼女の突き出した手の中で、徳永の端末は冷静に告げていた。

充電するか、
電池を入れ替
えてください

「ああ、電源ね。それなら充電器──」
「ああああぁ!」
 白百合お嬢さまの手の中で、光は途絶えた。
「でんち、でんちい!」
「おちついて、アキホさん、大丈夫だからおちつ……」
「だだって、暗証番号わかんないし! いっぺん切っちゃったら、もう連絡とれなくって、だからあたしさっきはずっと切らないでおいたのに! もうわかんなくなっちゃったんだよ!」
 あとはもう「だって」「どうしよう」「あたしのせい」の大洪水。仲間に連絡はとれるよ、といくら言っても効果なし。うーん、お嬢さまってこういうふうにパニクるのか。
 奥のほうにいたウェイトレスさんも、あのーいかがなさいましたでしょうかって寄ってきた。
「あ、だいじょうぶです。ご心配なく。ご迷惑おかけしてます」
「もしなんでしたら、お医者さまかどなたかをお呼……」
「いえほんとに。だいじょうぶです。すみません」
 とは言ったものの。どうしよう?
 彼女は携帯を握ったまんま、前後に体を揺らしてる。このままほっといたら、教会に駆け込んで半日くらい懺悔しそうな雰囲気だ。うーむ。お嬢さまって、どうやって落ち着かせればいいんだろう。うちのクラスの女子……は参考にならんなあ。母さん……は泣いて喚いて自分で勝手に立ち直るし。
 しょうがない。あれでもやるか。
「えーと……アキホさん。見てて、これ」
「へ?」
 彼女の両手をゆっくりほどいて、解放された携帯端末は僕の右手の上へ。その上を、ゆっくりと左右に、僕の伏せた左手が往復を開始する。
「ほら見て」
 彼女は僕の言葉にしたがう。彼女の視線と、首の動きと、そして疑うことを知らない無垢な心は。
 四度目に左手が通りすぎた瞬間、右手が素早く裏返しになる、すると携帯は手から落ちてテーブルに勢いよくぶつかる。
 ぶつかるはずだ。彼女の視点からは。
「…………!」
 けれど徳永君の銀色の機械は、テーブルのどこにも見当たらなかった。

「ね? 消えちゃった」
 僕は左手を伸ばし、彼女の右の耳もとに触れる。びっくりした彼女、きれいな二つの瞳で、テーブルの上の右手と伸びてきた左腕をいっぺんに見ようとして視線が定まらない。彼女の耳たぶと頬は、予想以上にやわらかくって、僕はすこしだけドキドキした。
「でもだいじょうぶ、このとおり、ここからいくらでも出てまいります」
 僕の左手は、アキホさんの髪の中から、みごと携帯端末を絞り出した──としか思えない。
 もちろんすべては、手先の動きと勘の良さ。
 それでも慣れていない人の目には、僕のような半分素人のパーミングでもじゅうぶんに不思議に映るらしい。
「わ…………」
「落ち着いた?」
「すごい! どどどうやったんですか! うわあー!」
 落ち着いてくれた、というよりも、かえって幼児退行させちゃったかな。
 いつもさとるの前でやってみせる時は、もうすこし手の込んだ演出が要る。弟のやつは、兄貴の消失技を長年堪能してきたせいか、かなり目が鋭くなってる。小二の夏以来、日々研鑽してきた身としては、少々複雑な気分だけど。

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15×24(イチゴーニイヨン)link one せめて明日まで、と彼女は言った

新城カズマ

「なんで自殺しちゃいけないの?」とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすす...もっと読む

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