パート3.せめて明日まで、と彼女は言った 伊隅賢治[10:26]三橋翔太[10:26]

トクナガ見つけれて自殺とめれたら、そしたらイスミぶちのめしてほんとのとこぜんぶ白状させてやる――とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすすめ文庫王国2009』でライトノベル部門の堂々1位を獲得した『15×24(イチゴーニイヨン)』シリーズを2巻まで連日更新。読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉を味わってみてください。(イラスト:箸井地図)

伊隅賢治 [10:26]

 同学年!
 いや、このミツハシという男は高校に進学していないから、同年齢というべきか。でも、どのみちどちらの表現にも違和感がある。
 ミツハシは僕らとは異なる、何ものかだ。
 羊の中に狼が一匹、という紋切型の表現は、真実であるからこそ陳腐化するまで繰り返し使われる。そのことを僕は理解できた。彼こそはそれなんだ。弱い群れの中の、ただ一匹の力。荒々しい髪の毛は、耳元から顔の輪郭をつたって顎の無精髭と触れあわんばかりだ。上着とシャツの汚れは、よくよく観察すれば血痕けっこんと解る。靴は、非常時のためにきちんと履き慣らした古いスニーカー。全身の筋肉は、服を透かして周囲の者を圧倒する。
 それから、その表情だ。冷たい、何もかも見尽くし知り尽くしてしまった瞳。もはや思考を捨て去って、あるいはあまりにも深い思考の果てに、躍動感と爆発力だけで動こうと決心した唇。
 彼は、僕を引っぱったまま走った。僕の体はついていくので精一杯だった。自分たちが西口のほうの新宿中央公園に辿り着いたのだと悟るまでに、僕は二回ほど嘔吐おうとしかかり、その後も五分間は荒い呼吸のままだった。ミツハシは、どうやらここに隠れて警察をやりすごすつもりらしい。公園の中は全体にゆるやかな斜面、芝生と散歩道とコンクリートの階段。目の前は都庁だ。いかにも人目につきそうな大都会のオアシスだけど、この男の自信満々な様子から推察するに、かえってこういうほうが安全ということなんだろう。灯台もと暗し、これもまた紋切型の中の真実だ。
 警察の追跡がないことを確認して、僕たちはパークタワーのほうから繁華街へ移動した。その間にかわした意味のある会話といえば、
「イスミ、金あるか」
「あるよ」
「いくら」
「五千ちょっと。なんならコンビニでおろして──」
「まだいい」
 それだけ。簡にして要を得ている。なぜなら僕たちの能力は、この巨大な都市のなかでは軍資金の額に正比例するのだから。寡黙さと行動力は、表裏一体なのだということを僕は改めて学ぶ。
 そしてこの寡黙なる人物、ミツハシ・ショウタは、先ほどから(なぜだか)徳永のところへ行きたいと言ってゆずらない。やつの居場所をボクが知っているに違いない、仮に知らなくても見つけることができるはずだ。だから連れて行け、と。
 ボクは困惑するしかない。彼は理由を話そうとしない。少なくとも、高校生が自殺するところを見物するのが趣味なんです、というのではなさそうだ。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

ケイクス

この連載について

初回を読む
15×24(イチゴーニイヨン)link one せめて明日まで、と彼女は言った

新城カズマ

「なんで自殺しちゃいけないの?」とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすす...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません