伊隅賢治 [10:26]
同学年!
いや、このミツハシという男は高校に進学していないから、同年齢というべきか。でも、どのみちどちらの表現にも違和感がある。
ミツハシは僕らとは異なる、何ものかだ。
羊の中に狼が一匹、という紋切型の表現は、真実であるからこそ陳腐化するまで繰り返し使われる。そのことを僕は理解できた。彼こそはそれなんだ。弱い群れの中の、ただ一匹の力。荒々しい髪の毛は、耳元から顔の輪郭をつたって顎の無精髭と触れあわんばかりだ。上着とシャツの汚れは、よくよく観察すれば
それから、その表情だ。冷たい、何もかも見尽くし知り尽くしてしまった瞳。もはや思考を捨て去って、あるいはあまりにも深い思考の果てに、躍動感と爆発力だけで動こうと決心した唇。
彼は、僕を引っぱったまま走った。僕の体はついていくので精一杯だった。自分たちが西口のほうの新宿中央公園に辿り着いたのだと悟るまでに、僕は二回ほど
警察の追跡がないことを確認して、僕たちはパークタワーのほうから繁華街へ移動した。その間にかわした意味のある会話といえば、
「イスミ、金あるか」
「あるよ」
「いくら」
「五千ちょっと。なんならコンビニでおろして──」
「まだいい」
それだけ。簡にして要を得ている。なぜなら僕たちの能力は、この巨大な都市のなかでは軍資金の額に正比例するのだから。寡黙さと行動力は、表裏一体なのだということを僕は改めて学ぶ。
そしてこの寡黙なる人物、ミツハシ・ショウタは、先ほどから(なぜだか)徳永のところへ行きたいと言ってゆずらない。やつの居場所をボクが知っているに違いない、仮に知らなくても見つけることができるはずだ。だから連れて行け、と。
ボクは困惑するしかない。彼は理由を話そうとしない。少なくとも、高校生が自殺するところを見物するのが趣味なんです、というのではなさそうだ。
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