枯野透 [10:20]
「アキホちゃ……アキホさん?」
「トオルさん? ですよね? ああよかったあ! やっと会えたあ!」
五分前、新宿に着いてケータイで会話した時までは小学生のお嬢ちゃんだったはずの彼女は、ド派手な化粧をした私服の女子高生(……なのか?)に変身するが早いか、全速力で駆け寄ってきて、ぼくの両手首をつかみ激しく上下に振りまわした。握手、のつもりなんだろうたぶん。
神社の
「ごめん、どっか店に入っていいかな。喫茶店とか」
「はい、はいはい、もちろんです!」
「うん」僕は歩きながら徳永のケータイを受け取り、ちょっとだけ迷ってからメールを読む。思ったとおり、大量の『どうしたんだよ? だいじょうぶ?』メールがあちこちから届いてる。
電話の着信記録のほうは……今日の分は、同級生のものらしきニックネームが並んでる。僕に連絡してきた左右田の名前は、見当たらなかった。そういえばあいつも、さっきからメールしてるのに返信がない。まさか左右田のほうでも何かあったのか?
よく見ると、九時ちょっとすぎから四〇分あたりまで、名前の表示されてない着信はぜんぶ同じ番号だった。ということはつまり、徳永がこの相手の名前を入力してないってことで……知り合いじゃないのか、もしくは初めてかかってきた友人なのか。それにしてもどっかで見たような番号──あ。
「え!? ど、どうかしましたかトオルさん!?」
「あ、ごめん何でもない」
なんだ。これ僕の番号じゃんか。僕は頭をふって、鼻から深呼吸した。
もういちどメールボックスを開けてスクロール。こうしているうちにも、誰かからメールが届いた。
「アキホさん、これ、どこで見つけたの?」
「は、あの、そこの、いえ、あちらの道ばたに」
「徳永……」っていっても分からないか。「……これの持ち主は見なかった? 持ち主らしき人とか」
「い、いえ、ぜんぜん」
「このメール、どれかに返信してみた?」
「いいえ、まさか! その、他人様のケータイを勝手に見るなんてことは、わたくしそんな」
「…………」
僕は他人様のケータイを開いたまま、これ以上勝手に着信記録を見てもよいものかどうか、考え込む。いや、彼女はそういう意味で言ったんじゃないとは思うけど。
「あ、あの、枯野さん」