パート3.せめて明日まで、と彼女は言った ​笹浦耕[10:20−]

自殺したがってる同い年の男子生徒のために割ける時間は……、三秒だね。なんでかって? しょうがねーでしょ。当人が死にたがってんだから――とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすすめ文庫王国2009』でライトノベル部門の堂々1位を獲得した『15×24(イチゴーニイヨン)』シリーズを2巻まで連日更新。読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉を味わってみてください。(イラスト:箸井地図)

笹浦耕 [10:20−10:44]

 つーわけで、よーやくオレの出番ね。

 まあ、他の連中もいろいろドタバタしてたみたいだけど、こっちだってけっこー大変だったんだよ。
 なにしろ、朝んなってようやく目が覚めたら(ちなみに低血圧の高校生にとって冬休みの正午より前は、ぜんぶ朝だ)、ケータイがもうビカビカ光りっぱなしなわけで。
 あ、もしかしてしのぶさんから電話かなーって、のそのそベッドから起きてさ。画面見て、まあびっくり。
「なんじゃこりゃあ」
 思わず言っちまった。ちょっと松田優作風。べつに誰も聞いてないけど。親父は上海に出張中だし、他には誰もいないし。がらんとした3LDK、十四階建ての最上階から一つ下。窓の外は灰色のビル群、首都高、たま〜にカラスの御一行様。道玄坂どうげんざかから見おろす、毎度ノンキな年の瀬風景。
 あんまりびっくりしたんでオレ、朝飯のジャムトースト食ってから、しのぶさんに電話しちゃった。
「もーしもーし」
『あれ、コーくん。キミにしては早いじゃん。どしたの、低血圧なおったの?』
「いやーそれがですね」
 メールの山が教えてくれたドラマチックな展開を、オレはかいつまんで説明する。こういうあらすじ要約とかは、わりと得意なオレですよ。
「──というわけ。いやーびっくり。世の中いろいろあるよね、年末だってのに。あそうだ、それで今日のスケジュールのことなんだけど」
『………………………………』
「もしもーし?」
『あのさコーくん』
「はい?」
『なにそれ。ちょっと冷たすぎくない?』
「なんで?」
『だってその人、トクナガくんだっけ、が自殺しようとしてるんでしょ!? そんなの──』
「もう、しちゃったかもよ。自殺」
『やめなさいてば、そういう言い方! キミのクラスメートでしょうが、しかも!』
「部活で一緒なだけだってば。クラスが同じなのは在所のやつで」
『でもなんでもいいから! ようするに、うちの大学の付属高校の生徒だわよ! つまりわたしの後輩でもあって! キミね、そういう緊急の時に友人を見捨てて遊びに行こうっての? だめだよ、そんなの!』
「遊ぶのは午後からでしょ。あ、べつに今からでもいいけどオレは。どうせ空いてるから、予定」
『空けるなこら! よけいダメだってことでしょが! あのねキミね』
「だって」こういう場面は肩をすくめるしかない。誰も見てないんだけど。「だってオレそういう人間だもん。しのぶさん知ってるくせに」
『………………』
 そう。
 もちろん、しのぶさんは知ってる。
 だってオレ、最初のデートん時にちゃんと教えたんだから。笹浦耕っていう人間は、他人のために一定以上の時間を費やさない性格なんです、って。
 ゼロじゃなくて一定時間は費やしますよ、てところに正直な青少年の主張を感じとってほしいもんですが。

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15×24(イチゴーニイヨン)link one せめて明日まで、と彼女は言った

新城カズマ

「なんで自殺しちゃいけないの?」とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすす...もっと読む

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