パート3.せめて明日まで、と彼女は言った 在所惟信[10:05−]徳永準[10:00−]

自殺したがってる同い年の男子生徒のために割ける時間は……、三秒だね。なんでかって? しょうがねーでしょ。当人が死にたがってんだから――とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすすめ文庫王国2009』でライトノベル部門の堂々1位を獲得した『15×24(イチゴーニイヨン)』シリーズを2巻まで連日更新。読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉を味わってみてください。(イラスト:箸井地図)

在所惟信 [10:05−10:16]

 で、メールの返信が来ないんで、まあしょうがないや電話だってんで、まあどうせ料金は親が払うんだし、友人の生死の問題なわけですし。こんなところでお金をケチったなんて後でバレたら、どんな噂されるやら! そしたらマーチはすぐ出て、
『……おうどうした。何かわかったのか?』
 臨戦態勢っていうのかなあ、あの声。そんな感じだったんですよ。で、
「あのさ。パソコンだめだ。日記もないし」
『なに? 聞こえねえって。なんでそんな小声なんだよ』
「あんま大きな声、出せないんだよ。すぐ下に徳永のお母さんとか、お姉さんたちいるし」
『あっそ。で?』
 っていうんで俺、部屋の中を見回したんですけど……フローリングで六帖くらい、ベッド、本棚、収納棚。天井は高くって。机はきれいに整頓。パソコンが一台。壁には『常在戦場』の四文字が和紙に筆で書かれてて。日付は去年の春、高校入学の時。その横のポスターは、アイドルでもサッカーでもなくて、エアブラシで描かれたイルカと惑星が南の海だか宇宙だかで泳いでるようなやつ。なんだかなあ。せめて印象派とかにしてくれよ、とか、ちょっと気が滅入りましたわ、実際。美術部の鑑賞班としましては。
 アイドルってのはですね、すっごく重要なんですよ。いや、こんな話はエリさんには言わずもがなかもですけど……あ、すいません、ほんと。
 えーとですね、俺大好きなのはロートレックなんですよ。そうです。アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック。いや、関係なくないです──つまりですね、あの人って史上初のアイドル追っかけなんですよ。ぼろっぼろの人生で、アル中で、でもあんなすげえ絵まで描いちゃったりして。すげえんですよ、憧れちゃいますよ実際。
 いやそうじゃなくってですね。奇麗なねーちゃんを「わーきれいだなー」って褒めるんなら、バカでもできるんですよ。ロートレックのすげえとこは、きれいなものを自力で見つけだせちゃった、ってとこなわけで。
 つまりですね……アイドルってのは、見るだけで落着するから良いんだってことですよ! そう、そういうこと! そのへんの可愛い子だったら触れたりエッチできたり、つまり「ほんとに居る」んですよ。でもアイドルはそうじゃない。
 って現実に存在してることはしてますよ、でもその、だから、えーと、わかんないですか俺の言いたいこと。アイドルの女の子は、ただそこに居て息してニコニコしてるだけじゃない。彼女たちは、見られてんです。見られるために、見られることで存在してんです。見られてないと意味がなくて、見られた時に初めて意味がそこに生まれて、だから彼女たちの良さを見抜く目利きが……つまりロートレックとかが……必要なわけです。
 うん、そりゃまあたしかに。でっかいパーティーとか行けば直接会えますよ、アイドルには。あとテレビ局遊びに行ったりとか。でもうちの親父、なんでか知らないけど、そういうのはおまえはダメだって昔っから禁止してたんですよ。
 政治家のじいさんばっかりのパーティーとか、銀座のクラブとかは、ぜんぜんOKなんですけど。さかきの大伯父さんに料亭に来いって呼ばれて、前の総理大臣て人に紹介された時は、美人のおねーさんとたくさんお知り合いになれたけど。でも芸能人だけはダメなんだって。職業差別? かもしんないですねえ。
治英はるひでおじさんも、生写真とか撮影して使わなかったネガとか、知り合いの写真家から秘密ルートでくれたりするんですけど、でも「ほんとに会うのはやめといたほうがいいね」って、いつも。
「ほんとうに奇麗な女の子はね、遠くから眺めているのがいちばんなんだよ」って。まあ、そういうもんかなあと。うん、たしかに影響されてるかもしれないですね、おじさんの考えに。
 えーとなんの話でしたっけ。あそっか。それでですね、俺ケータイでマーチに報告しまして、
「パソコン、パスワードわかんなくて中は見れなかった。日記みたいのも見当たんないし。引き出しはぜんぶ開けてみたんだけど、机の。ノートと教科書が上に置いてあるくらいで」

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15×24(イチゴーニイヨン)link one せめて明日まで、と彼女は言った

新城カズマ

「なんで自殺しちゃいけないの?」とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすす...もっと読む

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