パート3.せめて明日まで、と彼女は言った 枯野透[09:50]渡部亜希穂[09:50]

自殺したがってる同い年の男子生徒のために割ける時間は……、三秒だね。なんでか? しょうがねーでしょ。当人が死にたがってんだから――とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすすめ文庫王国2009』でライトノベル部門の堂々1位を獲得した『15×24(イチゴーニイヨン)』シリーズを2巻まで連日更新。読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉を味わってみてください。(イラスト:箸井地図)

枯野透 [09:50]

「切らないで! もしもし!」
 ようやくつながった回線の彼方へ、僕は大声で懇願する。神楽坂かぐらざか商店街を往来中のみなさまが、こっちをちらちらと見る。果物屋のおばさんは「ああ、また枯野さんとこの上の子が他人さまのゴタゴタに首つっこんでるよ」みたいな調子で頭をふっている。あのね、おばさん、僕だって好きでつっこんでるわけじゃないんですよ。むしろ毎回まきこまれてる立場なんです。
 僕は単に、ハッピーエンドを傍観したい脇役志望なんです。
『──もしもし?』
「もしもし!」男子の声じゃなかったぞ。ということは。「えーと、そちらに徳永くんて人、います?」
『……あの……』
「だいじょうぶ、心配しないで!」
 なぜだか自分でもわからないまま、とっさに僕はそんなことを叫んでた。きっと何か予感があったにちがいない。
 心配しないで。
「だいじょうぶですから! 問題ないですよ! もしもし、僕、枯野といいます。枯野透。都立星が岡高サッカー部の左右田くんの、知り合いです。彼からメールもらいまして、それで至急徳永くんに連絡をとりたい用件がありまして、先ほどから何度か電話かけてたんです。そちらは?」
『…………あ、えと』
「もしもし? どうぞ?」
『わ、わ、ワタベアキホ、です』
 うわずった声は、まるで別人みたいだった。もしかして──最初は同学年って印象だったけど──この子、中学生か?
『アジアのアーに、キボーのキーに、イナホの』
「わかった」いや、小学校高学年でも可能性ありだな。暁の友だちにも、こんな感じの子がいるし。うーん、どうするか。よし。「……ちょっと深呼吸してくれる?」
 即座に素直な返事と、それから遠い風の音。
(さてと……)
 ぼくも大きく息を吸う。体の芯に、まだ眠気が残ってる。
 冷静さが戻ってくる。
 事情はともかく、徳永の携帯電話は今この小学生(推定年齢十一歳てところ)が手に入れてる。落としたのか、もしくはわざと置いていったのか。どっちにしても、今のところ手がかりはこれしかない。まずは現在位置だ。──運が良ければ、まだ徳永はこの子の近くにいる!
「アキホちゃん。そこ、なんていうところ? 近くの駅の名前、わかるかな?」

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渡部亜希穂 [09:50]

『だいじょうぶ。心配しないで』
 あたしの心をぴったり読んでるみたいに、その人の優しい声は響く。
『だいじょうぶですから──問題ないですよ──』
 ほわーんとして、あたしは声の泡のなかでただよってる感じ。
 うわあ。気持ちいい。
『もしもし。僕、カラノといいます。カラノ・トオル』
 あたし、なぜだか急に体がふるえる。なにこれ。寒いのと、熱いのと。さっきまであんなに楽だったのに。どうしちゃったの、あたしのカラダ?
 耳がじーんとして、ようやく質問の意味が頭の中でほぐれてきた。
『──んです。そちらは?』
「渡部亜希穂です。アジアの亜に、希望の希に、稲穂の穂」
『わかった。ちょっと深呼吸してくれる?』
「はい!」
 なんでそこで深呼吸やねんというツッコミはジシュクして、あたしはすっごく素直に指示にしたがう。とっても心地よい冷たさが、こんどはつま先のいちばん先っぽからあたしの中に入ってくる。

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15×24(イチゴーニイヨン)link one せめて明日まで、と彼女は言った

新城カズマ

「なんで自殺しちゃいけないの?」とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすす...もっと読む

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