パート3.せめて明日まで、と彼女は言った 伊隅賢治[09:43−]三橋翔太[09:44]

自殺したがってる同い年の男子生徒のために割ける時間は……、三秒だね。なんでか? しょうがねーでしょ。当人が死にたがってんだから――とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすすめ文庫王国2009』でライトノベル部門の堂々1位を獲得した『15×24(イチゴーニイヨン)』シリーズを2巻まで連日更新。読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉を味わってみてください。(イラスト:箸井地図)

伊隅賢治 [09:43−09:44]

 なんて滑稽なんだ──ケータイのLEDで見つかるなんて!
 警察に連絡しようなんて考えたのが愚かだった。いや、そもそも振動を止めておいたのが間違いだ。さもなければ、さっきからひっきりなしにメールが届いていると気づけたはずなのに。馬鹿げているけど、今さらながら電源を切ろうとする。画面が一瞬だけ見えた。どこかの阿呆がメールをまとめてccしてるらしい。ちくしょう!
 近づいてきた。大きい。その男、一八〇センチ、いやもっとある。それから太い腕と脚。筋肉質だ。しかもバランスがとれている。実戦向きの肉体。総合格闘技の選手でも、これだけの体格はそういないだろう。
 ボクの手から、あっというまにケータイが奪われる。男の左手によって。そしてもういっぽうの手にはナイフ。おかしなくらいボクは平静だった。それとも、あまりにも動転していて、平静と勘違いしているんだろうか。なにもかもがゆっくりと動いている。音が、頭の後ろのほうからしか聞こえない。冷たい感触が胃の中にある。異物だ。ボクは何かに呑み込まれ、そして呑み込んでしまった。それがボクの中でうねっている。別のもの。ボクでないもの。この世の外の破片、あり得るはずのない胎児。
 なんて皮肉なエンディングだろう……これがボクの望んでいた『死』の正体なのか。

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三橋翔太 [09:44]

 ケータイにメールがきたのがどんどんどんどん、あたらしいのがやってきて、おれはそれをよんだ。
 ふーん。
 なんかよくわかんなかったけど、かん字おおいし、でもまあこいつのダチがひとり、死ぬってせんげんして、もうじき死ぬつもりらしかった。
「あんだこれぁ」
 そいつにおれがゆった、そしたらそいつが、わりと声ふるえてたけど、そりゃそおだろこっちはナイフもってんだから。
 しかもまだ血がついてて、けっこう黒くなって固まってる、でもまあ血だってこたぁ見りゃわかるよなふつー。
 それで、そいつわりと声ふるえてて、でもわりとちゃんとしゃべったから、けっこう度胸あるやろだ。
 おれは度胸あるやつはそんけえする、すげえとおもう。
 テレビのリングスとか、K-1もな、あとPRIDE、試合はわりとすげえ見てるし『センパイ』に乗せてもらって、さいたまアリーナにも見にいったことあるけど桜庭とかすげくて、あとマーク・ハントとかシェーム・シュルトとかそれに中華レストランのステーキもすごかった、でもボブ・サップとかはだめだ、あれぁすぐにびびるしタッパとか筋肉あっても背中みせやがる、びびったとこ相手に見せたらもおそこで負けだろふつう、判定がどおとかじゃなくてさ、勝ち負けだよ、だからアンディ・フグとか柴千春とかはぜんぶ勝ちだ、ゼロ敗だあいつらは、すげえよな、だってケンカってのは相手のきもち折ることなんだから、これは神取忍がゆってたことだからまちがいねい。
 なんの話だっけ?
 ああそおだ、メールだ。
 だからとにかくそれでおれはよんで、メールを、それでそのとき、ついにってゆうかやっとわかったんだ。
 これだ。
 これがプラマイゼロだ。おれの。
 てゆうか、おれこいつが死ぬのが止めるために、このトクナガってゆうやつをなんとかたすけるためにだ、きっと、ちょっとおおげさかもしんねいけど生まれてきたんだ、そうだよなこりゃきっとそおにちがいねえんだ。
 ほっとけばこいつ、じぶんで死ぬ。
 でもおれがほっとかねいんだよ、つかまえて、死ぬな死ぬんじゃねいとかゆって、死ぬきもち折ってやるんだ、そしたらおれのやってきた悪いことは、いままでのはぜんぶ、まあぜんぶはちょっとむりか、半分くらいかな、いろいろ悪いことやったしさ、でもいま肝心なのは吉祥寺のぶんだからあれだけでも、たぶんきっとそんくらいはゼロにもどしてもらえる。
 そおゆうふうにこの世のなかはなってる。
 じゃなかったら、アンディの踵落としじゃあるめいし、こんなうめいタイミングぴったりで見るわけねえもんこおゆうメール。
 よし。

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15×24(イチゴーニイヨン)link one せめて明日まで、と彼女は言った

新城カズマ

「なんで自殺しちゃいけないの?」とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすす...もっと読む

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