パート2.例のメールが届いてから 伊隅賢治[9:38]

この世から去るのに『完璧な場所』で『最良の方法』を確かめなきゃいけないのに、ぼくのケータイはあの女のところ――とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすすめ文庫王国2009』でライトノベル部門の堂々1位を獲得した『15×24(イチゴーニイヨン)』シリーズを2巻まで連日更新。読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉を味わってみてください。(イラスト:箸井地図)

伊隅賢治 [09:38]

 徳永のやつときたら、無気味なくらい明朗な暴走族(もしくは右翼団体のテニスサークル)に囲まれてちっとも動こうとしない。禁煙席はほとんど奴らの貸し切り状態になっている。おかげでボクは座りたくもない喫煙席の隅っこに座って、競馬新聞を愛読する禿はげのじいさんの隣で肺を痛めてる始末だ。なんてことだ。だいたい何者なんだ、あいつら。制服の色は赤だけど、ガーディアン・エンジェルでもなさそうだし。そもそもまともな自警団なら、背中に『七生報国しちしようほうこく』なんて刺繍ししゆうをいれたりしない。
 こんなことは計画にはなかった。
 それからもうひとつ。さっきからどんどんやってくるメールの山だ。どこかで「徳永が自殺しようとしてる」という噂が流れてる。いや、より正確に表現するならば、当人が言いふらしている(としか思えない)。
 最初は、遺書めいた短い文章だった。紀伊国屋書店の前の横断歩道で、徳永が自警団ともめていた時だ。ぼくは急いで脇道に隠れ、ケータイを確認した。文章が途中で切れている。アドレスをよくよく見直すと、なんと徳永本人から。その直前まで、やつはケータイをじっと見つめてキーを操作していた(ボクは安全のため、徳永の後方三十メートルほどのところにいた……それでも手先の動きくらいはわかる)。つまり、やつはあきらかに遺書を推敲すいこうしていたんだ。すべってころんだショックで、誤って送信してしまったに違いない。文章を書く前に送信先を選ぶのは、ボクに言わせれば理屈に合わない行為だ。誤送の危険性を考えるのであれば、送信先を入力するのは文章を書き終わった後が最適だ。もっとも、それをしてしまうのがいかにも徳永のやつらしいと言えなくもないが。あいつは生真面目に、画面の上から順に埋めていくのだろう。
 まあ、それはどうでもいい。そこから先だ、重要なのは。まったく予想外の展開だった。二通目の、より完全な『自殺予告メール』が説明文付き(送り主は同じクラスの在所だけど、もとはその友人の誰からしい)でやって来たのが三十分ほど前のこと。以降、十数秒に一通は誰かしらのメールが転送されてくる。あんまりうるさいので早々に着信音も振動も切っておいたけど、さもなかったら店から放り出されても文句は言えないところだ。
 この状況は不可解な点が多すぎる。徳永はボクにあんな中途半端な遺書を急いで送りつけておいて(いや、ボクだけじゃない……飛び交っているメールのアドレスと数から察するに、最終的にはクラスの大半および他の高校の連中にも転送されている)、にもかかわらず、いっこう死ににいく様子もない。あいつの性格からして、そのへんの手順はきちっと淀みなくおこなうはずなのに。それから、今このメールの応酬を仕切ってるらしい〈マーチ〉と〈トウコ〉。こいつらは徳永の現状を、そしてボクの計画を、どこまで知っているのだろうか。まさか徳永自身が……いや、それは考えにくい。となると、例の〈17〉か。

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15×24(イチゴーニイヨン)link one せめて明日まで、と彼女は言った

新城カズマ

「なんで自殺しちゃいけないの?」とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすす...もっと読む

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