在所惟信(ザイショ ヨシノブ) [09:01−09:22]
で、そしたら一〇分くらいのあいだに、メールものすごい数が届いちゃいまして……あれ見てたらきっと何これ! とか思ったはずですよ、エリさんも!
あ、すいません。えーとですね、最初の遺書メールが届いたのは九時ちょうど、かな。びっくりして俺ソファからとびあがっちゃいまして(笑)。
だってそうでしょ? いきなりクラスメートから『永遠にさようなら』『今日でおわかれです』って。転校とか引っ越しの時は、ふつうこんなふうに書かないし。いや、書くかもしれないけど、女子とかは。でも徳永はそういうベタベタ詩人みたいんじゃないですから。もっと真面目タイプなもんで。
つまりこれは自殺ってことで。
でも、どうして自分から死ななきゃなんないわけ? 残された家族の気持ちとか、世間がどう思うかとか……自殺だなんて! しようと思うやつの気が知れないですよ!
しかも、書きかけみたいな手抜きの文章だったし。
(新手のジョーク?)
ようやく思いついたのは、そんくらいでしたよ。そうだ、きっとそうにちがいないって。でなけりゃ意味わかんないでしょ。
でも、もしジョークじゃなかったら?
(警察に連絡──して、これがイタズラだってことになったら、俺ってやっぱり共犯者になるんだろうか?)
徳永ってのは、あーそっか、エリさん知らないんですよね。あ、すいません。あのですね、あいつは真面目で、優等生で、おとなしくて、先生のいうこと聞く素直なやつで。だからといって、イタズラをしないという保証もないですけど。
逆にああいうやつのが「ふだんから問題もおこさない良い生徒で、どうしてこんな大それたことをしちゃったんでしょうね」なんて後からテレビのインタビューでモザイク越しに言われること多いんですよね。真面目で、おとなしくて、成績が良くて。ぴったりあいつのタイプじゃん。でしょ?
あ、でも成績良いってのは違うか。こないだの中間試験は、ずいぶん落ち込んでたみたいだから。いや、前期の期末もか。あれ? 徳永って勉強できるほうだったよなあ? どっちだっけ。中学のころ上位だったのは印象にのこってるけど。中一の最初に「医学部志望です」なんて自己紹介して、別のクラスだった俺のところにまで噂がとどいてたし。──いつごろから聞かなくなったんだっけ、あいつの噂。
えーとですね。
ようするに誰であろうと、心の中のほんとのところはわからないってことですよ。うん。だからこそ外見が重要になるわけですし。みんなどこかで判断しなくちゃいけないわけですから。
で、ともかくその時は、次にこう考えたわけですよ。
そもそも、なんで徳永の遺書が俺のところに?って。
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