パート2.例のメールが届いてから 枯野透[9:10−]

この世から去るのに『完璧な場所』で『最良の方法』を確かめなきゃいけないのに、ぼくのケータイはあの女のところ――とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすすめ文庫王国2009』でライトノベル部門の堂々1位を獲得した『15×24(イチゴーニイヨン)』シリーズを2巻まで連日更新。読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉を味わってみてください。(イラスト:箸井地図)

枯野透(カラノ トオル) [09:10−09:16]

「あ。メール」
 ケータイを取り出したら、父さんと母さんはひどく嫌そうな顔をした。
 ひとの話を聞く時はちゃんと聞きなさい、というのが母さんの口癖だったし、父さんは母さんの意見にはたいてい賛成してるからだ。
 二人の意見が違うのは年にいっぺんあるかないかぐらいで、今年のそれはもう八月下旬に済まされてた。父さんの最新時事評論集の初版部数を二千にするのか千五百にするのか、という大論争だ。ちなみにそれは半日の衝突の後で千七百に決まった。夫婦二人の零細出版社で、夫は主著者、妻が社長兼経理、というのも便利なんだか不便なんだかよくわからない。貧乏なのだけは確実だけど。
「透」
「はい」
「ちゃんとなさい」
「はい」
 正座したまま、ケータイを閉じて卓袱台ちゃぶだいに置いた。昔ながらの下町の純和風な看板建築、南は縁側、六畳茶の間の真ん中にはクロームメッキの通信端末。なんていう情景は、たしかに不思議な感じがする。こんなのが二十一世紀だなんて、誰が想像できたろう。家は築九十年、うちの母方のおばあちゃんの祖父ちゃんが戦友の棟梁とうりように建ててもらった由緒正しい骨董品で、ということははりの歪み具合がおおよそ年率〇・〇五度という案配。
「なに天井見てるの。ちゃんと母さんのほうを」
「はい」
「見なさいまったく。朝帰りだなんて!」母さんお得意の切り出し方だ。「あんたまだ高校生でしょ。理由をおっしゃい、理由を」
「人を助けてたんだ」
「人? 誰を? クラスの子?」
「知らない人」
「………………は?」
 二人の息はピッタリだった。もしも弟の暁のやつが隣の部屋でまだ寝てるんでなかったら、さらに大音量の「はあぁ!?」だったはずだ。

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15×24(イチゴーニイヨン)link one せめて明日まで、と彼女は言った

新城カズマ

「なんで自殺しちゃいけないの?」とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすす...もっと読む

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