パート2.例のメールが届いてから 徳永準[9:00−]

この世から去るのに『完璧な場所』で『最良の方法』を確かめなきゃいけないのに、ぼくのケータイはあの女のところ――とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすすめ文庫王国2009』でライトノベル部門の堂々1位を獲得した『15×24(イチゴーニイヨン)』シリーズを2巻まで連日更新。読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉を味わってみてください。(イラスト:箸井地図)

徳永準 [09:00−09:37]

 気がついたら、もう犯人はいなかった。
 それから財布とケータイも。
 でも、その時は盗まれたってことに気づく余裕なんかなかった。
 新宿の自警団の人(だとは思うけど、なぜか三人とも角刈りで、背中に画数の多い漢字がべたべた並んでて、どっちかっていうと暴走族みたいだ)が、わっと押し寄せてきて、
「だから違いますって、ぼくチカンじゃないです!」
「黙れ! 後ろを向け! 手を壁に!」
「だってぼく何もして……」
「問答無用っ!」
 ぼくがチカンじゃないって自警団の人に納得してもらうだけで、まず十五分。
 ようやく誤解がとけてから、財布がなくなってることに気づき、交差点のあたりを見回して、念のため歩道の隅まで探しまわって──られたんだってわかるまでに、さらに一分。
 さっき後ろからぶつかって一緒にころんだ、あの派手な化粧の女。あいつだ!
 でも、もうとっくに彼女はいない。
 頭に血が上ってくる、っていうのは小説とかの表現だけじゃなくて、本当のことだ。首のあたりがカーッとなって頭がふくらんだような感じになって、それから周囲がぐるぐると動き始める。嘘みたいだけど、本当にそんな感じだ。
 ──どうしよう?
 まず思ったのは、それだった。財布はこの際どうでもいい。たいしてお金も入ってなかったし。でもケータイには電話番号と住所録、まだ消してない最近のメール。それから……あれ?
 どうせ今日死ぬのに、なんでぼくは自分の個人情報の流出なんか心配してるんだろう。
 ぼくは笑いをこらえた。そうだ。ぼくは死ぬんだ。解放されるんだ。あらゆることから。つまり、こういう細かい現実的な問題からも。
 たしかにこれはすごいことだった。財布とケータイを盗られても、ぜんぜん気にしなくてもいい! すごい、最高だ!
 これが本当の自由ってやつなのか?
 なんでぼくはもっと早く、こうしていなかったんだろう?
 ……でもやっぱり、ぼくは気が動転してたらしい。ほんとうの問題に気づいたのは、そのあと近くのマックに連れ込まれてしばらくたってからだった。

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15×24(イチゴーニイヨン)link one せめて明日まで、と彼女は言った

新城カズマ

「なんで自殺しちゃいけないの?」とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすす...もっと読む

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