パート1.例のメールが届く前 徳永準[7:49−]笹浦耕[7:59]

自殺すると決めた日、ぼくはぼく自身から自由になった――とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすすめ文庫王国2009』でライトノベル部門の堂々1位を獲得した『15×24(イチゴーニイヨン)』シリーズを2巻まで連日更新。読みはじめたら止まれない、ライトノベル史上〈もっとも長い一日〉を味わってみてください。(イラスト:箸井地図)

知ってる?

この世界には
三つだけ
ほんとうのことがあるんだよ。


徳永準(トクナガ ジュン) [12.31 07:49−07:59]

 朝だ。
 目が覚める。七時五十分ちょっと前。最高にすっきり気分。
 なぜって、今日ぼくは死ぬことになるんだから。

 ひとりで死ぬわけじゃない。といって心中でもないけど。理由はいろいろあって──でも本当のところは一つだけ。
 ぼくは、今日、自殺する。
 ネットで知り合った、名前も顔も知らない誰かといっしょに。
 その誰かのために。

 ベッドから起きる。
 目覚まし時計は、鳴り出す前に止めた。勉強机の隅のデジタル表示、余裕たっぷり。ぼくは不思議な気分になる。人生最後の日なのに、時間だけは余ってるなんて。
 他の人なら、こういうのを運命的暗示っていうんだろう。ぼくはそういうのは信じない──どっちかっていうと。
 カーテンをあける。窓のロックを解く。ぴりっと凍った風。
 準備しておいた服に着替える。チェックのシャツとジーパン、白のダウンジャケット。体がとっても軽い。お腹も痛くない。すごい。すごいぞ。こいつは素敵だ。自殺するって決めただけで、こんなにも爽快な気分になれるなんて。もっと早くにこうしとけばよかった。
 でも、そんなわけにもいかなかったのは当然のことで──つまりぼくがネット心中するって決めたのは三日前の夜、あの書き込みを見たからなのだし。
 じゃなかったら、今ごろまだ胃痛を抱えながらウジウジ悩んでただろう。そしてそのまま、陰鬱な新年を迎えてただろう。
 けれど。そうはならなかった。
 今日、ぼくは自由だ。
 自由になったんだ。
 ぼく自身から。

 大きく伸びをしてから、階下のキッチンへむかう。
 思ったとおり、母さんたちはまだ起きてない。廊下も、中庭も、食堂も、応接間の偽物マントルピースも、行儀のいい静寂でぼくを迎える。
 牛乳をレンジで温めて、コップ一杯ぶん飲んでから、ぼくは出発する。表門を出る時、やっぱり無意識のうちに看板を見上げてしまった。

    徳永医院   内科・小児科・皮膚科・産婦人科(母体保護法指定医)

 でも今日はだいじょうぶ、ちっとも胃は痛くならない。すごい。ほんとに最高だ。ぼくは思わず口笛を吹く。お気に入りのL'Arc~en~Ciel。朝の冷たさが、頬を親しげに叩く。
 すばらしい冬空、すばらしい気分。
 ぼくは死ぬ。ぼくは死ぬ。
 今日を限りに、ぼくは解放される。
 おまけにそれが人助けにもなるんだから。

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笹浦耕(ササウラ コウ) [07:59]

 その時間、オレはまだ爆睡中だったね。
 そりゃそーでしょ。大晦日だよ? なんで朝の八時前に起きてなきゃなんねーのさ。そもそも例の自殺メールもまだ届いてなかったし。
 あ。正確にいうと『自殺予告メール』か。
 それとも『ネット心中予定の通達メール』ってのかな。わかんねーや。まあ、それはそれとして。
 とにかくオレはちょうどそん時、夢を見てたわけですよ。小学校ん頃のオレ。と母親と妹と親父の登場する夢。しょーもな。
 もう六年も前だよ、全員そろってたのはさ。
 家族ってのはおかしなもんだ。とオレなんか思うけど……あ、べつに意見を押しつけようとか、そういうんじゃないよ。みんなそれぞれ考え方違っててもいいし。オレの考え、まちがってんのかもしんねーし。
 それはともかくオレがそん時想い出してたのは、つーか夢に見てたのは、自分の誕生日のでっかいケーキをみんなで切って食べてるシーンで、なんかほんと映画の一場面みたいで、ちょっとソフトフォーカスんなってて、それをぼーっと眺めながらオレはそんなふうに思ったわけですよ。家族っておかしなもんだよなあ、って。
 なんでかって?
 うん。
 なんでだろな。
 オレもよくわかんねー。つーか、そん時はよくわかんなかった。でも後からいろいろ考えたら、つってもそんなに後じゃなくってその日の夜から翌朝、つまり元旦にかけてなんだけど。
 とにかく、次の日の朝までに何だかんだであれこれ考える機会があったわけ。で、考えてみた。
 結論。
 家族ってさ。
 血のつながってる他人なんだよね。
 もちろん世の中には血のつながってない家族もあるよ、あるけどさ。ま、ちょっとそれはおいといて。うちはそうじゃなかったし。
 それから「他人」ってのは、べつに、縁もゆかりもない冷たい関係、とかそういうんじゃなくて。
 なんつーの?
 他の人?
 自分じゃない人間?
 うん。そんな感じか。
 自分じゃない、自分とは別個の、独立した人間。
 でも血はつながってる。
 つながってるって何が? いっしょに晩メシ食べた思い出? 顔とか仕草が似てること? 役所の戸籍で? 血液型で? DNAで? 以上の条件すべて?

 知らねーよ。ほんとのところ。

 クラスメートだっていっしょに晩メシくらい食うだろうしさ。血液型が同じやつなんて、いっくらでもいるし。顔も整形できるし。DNAなんか人類似たりよったりだぜ。十万年前のアフリカのどっかで、ミトなんとかイヴから始まってんでしょ、みんな。
 で、家族。
 でも、家族だ。
「何か」がつながってんだよね。まあ、クラスメートとかアフリカの人とかよりは。
 そういうつながりの関係があって、いっしょに暮らしてて、でも場合によっては別々に暮らすことになったりとか。オレんちみたいにね。だからっつって、離れて住んだだけで縁が完全に切れちゃうかってーと、そういうもんでもないし。
 だからさ。不思議なもんだなあ、って。
 うん。そうだ。「おかしな」じゃなくて、「不思議」なんだ。
 家族ってのは。

 ──とまあオレはそん時、あんまり自覚してなかったけども、おおざっぱに要約するとそんなよーなことを感じてたらしい。六年前の誕生日の夢を見ながら。
 で、そう思った時にオレ、寝返りうったぽくって、あとで見たら床に文庫本が落ちてた。開いたまんま落ちたんでページ曲がっちゃってて、やべえ、しのぶさんになんつって言い訳しようかって思った。のは憶えてるぞ、ぼんやりと。でもそれはもうちょっと後の話ね。
 で、ともかく。
 寝返りうった時は、ほんの一瞬、オレ、目が覚めてた。
 ような気がする。
 よくわかんねーけど。
 でも夢ん中で『あ、ケータイ鳴ってやがる』って思うこともねーだろ。だからたぶん起きてたはずだ。ちょびっとだけ。
 ほんというと、ケータイはまだ鳴ってなかった。着信記録もなかったし、あとで見てみたら。
 でも。
 もしかしたら、ほんとは鳴ってたのかもしんない。
 虫の知らせってあるでしょ。あれですよ、あれ。人間の感度ってそんなに良くないけど、でもそういうことあるじゃん。
 だから機械だって、なんかの予感を受信するぐらい、あるかもしんない。だろ?

 でもオレ、またすぐ寝たんだ。
 だって着信のとこ光ってなかったし。それに体力も温存しないとさ。だってその日は大晦日で、イブの夜は事情があって、しのぶさん会えなかったんだけど、その振り替えデートってことで。つまり今度こそオレ、しのぶさんと初エッチできんだから。
 いや、できるはずだったんだけどね。

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ケイクス

この連載について

15×24(イチゴーニイヨン)link one せめて明日まで、と彼女は言った

新城カズマ

「なんで自殺しちゃいけないの?」とある大晦日、12月31日。高校2年生、徳永準の自殺予告メールがネットに流出しました。友人である笹浦耕は東京のどこかにいる彼を止めようと捜索隊を結成します。そこから始まる15人の24時間の物語。『おすす...もっと読む

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コメント

inaba113 おっ、15×24がここで無料で読めるみたい。オススメ https://t.co/XaY99eGqPz 5年弱前 replyretweetfavorite

PlainBiscuit 最近これにハマってる。 5年弱前 replyretweetfavorite

tegit 『15×24』、2巻まで連日web公開とは!驚きですが、内容にもぴったりあった方法かも。 5年弱前 replyretweetfavorite