今、世界で何が起きているのか。それは、高等教育の世界間競争です。
つまり、世界中の高校生が、世界中の大学に行けるようになりました。おかげで、アジアやアフリカの貧しい国の優秀な高校生が、奨学金をもらってハーバードに行くような事例も出始めています。世界の大学は、世界中の優秀な頭脳の争奪戦を始めたのです。
もちろん、世界と言っても、アメリカのトップ大学が圧倒的に有利なのですが。言うまでもありませんが、日本の大学受験でしか通用しないガラパゴス英語教育を受けてきた日本の高校生は圧倒的に不利です。
たとえば、米国の大学に行くには、TOEFL iBT で最低でも61点が必要です。ただしこれは下位レベルの大学であり、上位校になれば80点、ハーバードなどアイビーリーグクラスなら100点以上になります。
しかし、ベネッセコーポレーションの調査によると、日本の高校生の平均は25~30点だそうです。高校生全員の平均ですから仕方がない面もありますが、問題は、優秀な層でも受験英語では米国大学には進学が困難であるということです。したがって、いくら学力があろうが、英語力が低ければ、日本の大学以外に行くことはできません。
国や文部科学省は、日本の大学を守るために、日本人にダメな英語教育を与えてきたのかと勘繰りたくなるほどです。何かに似ていますね。そう、かつての金融業界、いわゆる護送船団方式です。もしかしたら今でもそうかもしれません。
たとえばイタリアでは、国が所有する線路を複数の鉄道会社が走らせてよいため、同じ線路をA社とB社の新幹線が走っています。そのため後発組の新幹線会社は、安さや豪華さを売りにしています。
ところが日本の新幹線は、競争の原理が働きません。航空機と競い合っている場合は、互いに格安になったりしますが、新幹線の独壇場である東京から名古屋、仙台などは、片道1万円ぐらいします。今や東南アジアに行くLCC(格安航空会社)が同じ値段の時代に、殿様商売というしかありません。
大学も同様です。庶民の家計は苦しくなるばかりなのに、大学の学費は下がりません。国立大学でも初年度は80万円近くかかります。私立大学に至っては文系で平均110万円、理系はさらに高くなります。これも、競争原理が働かないからです。
日本にしかない偏差値で有名大学に入れるというパターンは、いろんな人が批判しても、ある程度合理的なシステムのため、なかなか変わりません。
カナダでは日本のような塾に行く文化はなく、公立学校に通うだけで、OECDのPISA(学習調達度調査)の学力テストは日本並みです。しかし、日本では誰もが塾に通わなければ有名大学には受かりません。だからお金がないと有名大学に入れなくなっています。もちろん、カナダの方がいいとは一概には言えません。
また、アメリカのトップ大学はともかく、アメリカの中学や高校の教育をマネしたいという日本の教育関係者はいません。エリート校ではない公立校では、日本の方がましだからです。優れているとされる北欧だって、日本がそのままマネしてもしょうがない。どこか他の国が正解を持っている時代ではなく、どの国も教育には悩んでいます。
そんな中で、教育の市場統合が始まろうとしています。それは、英語と言う武器を持ち、世界中の優秀な受験生を集められる米国主導です。そして、日本の大学もあせって、グローバル化だ、秋入学だ(東京大学ではポシャりそうですが)と言い始めています。