データの裏をかくには
—— 来年のワールドカップの優勝候補というと、どこが挙がりますか?
西内 やっぱりブラジルはすごいです。ただ、いろんな国がブラジル対策をしてくるから、その次のところにいるチームが優勝するんじゃないかなと思います。ドイツ、イタリア、オランダあたりかな。
中西 スペインもそうですよね。あと、定説があるじゃないですか。南米の大会は南米しか優勝しない。ヨーロッパの大会はヨーロッパの国。今回南米だから、ブラジルかアルゼンチンかウルグアイじゃないかみたいなことを言ってる人も当然います。
西内 ええ。
中西 ブラジルに関して言うと、エース的存在であるネイマールが気になりますね。今はバルセロナに移って1年目。ストレスもあり、シーズンの疲れもたまってるだろうし。
西内 気になるポイントですね。それに、ヨーロッパ人相手にプレイするネイマールの情報がどんどん流出していて、ワールドカップではかなり対策をたてられてるんじゃないかと思います。
中西 今の時代、選手に関する様々なデータが取られていますからね。
西内 そうですね。あの選手は後半25分から急激に運動量が下がる、とか。
中西 ボールが誰を経由していくのが1番多いのか、というのもわかるんですよ。それがわかれば、その選手へのパスルートを分断してしまえばいい。強いチームっていうのは、そこを分断されても、その他のバリエーションを持ってるチームなんです。
西内 そのへん、ドイツが強いなと感じています。
中西 僕もそう思います。選手を入れ替えることによって、各々の特徴を生かしてちょっとずつ違うサッカーにするような、戦術的にいろんな選択肢を作れるような選手がいますからね。
西内 ブンデスリーガの3チームを相手にしなきゃいけないくらいのスカウティングが必要ですね、きっと。ドイツと本気でやろうとすると。
中西 戦術のバリエーションを増やすには、固定のメンバーだけじゃきついですからね。2チームできるくらいのメンバー層がないとダメです。
西内 そう思います。
「日本人らしさ」が優勝へ導く鍵
—— ワールドカップ優勝に向けて、これから日本がすべきことは何だと思いますか?
中西 選手を入れ替えて、シフトアップするのか、シフトダウンするのか、維持するのかっていうような、ギアチェンジがちゃんとできる選手をどれだけ持てるか、っていうのが大事でしょうね。
西内 理想的には、1人入れることによって自動的にギアが変わるくらいの感じがパーフェクトですよね。
中西 そうです。この選手が入ったらシフトアップ、この選手なら現状維持だけどちょっと守備的とか。今は、そういうメッセージ性も持った交代がされてないので、それは不安なところです。
西内 これからの課題ですかね。
中西 西内さんは日本代表がすべきことは何だと思いますか?
西内 たぶん、普通の定石としてやるべきことはこの10年くらいで劇的に進んできて、だいぶ体制は整っていると思います。なので、これからは、まだ他の国の人が考えてもないような新しい練習法だったりとか、チームの作り方とマネジメントの方法っていうものにトライしてもいいような時期に来てるのかな、と思います。
中西 僕も、そう思います。実際、フィジカルが弱いとヨーロッパでは勝てないっていう定説を、香川選手や長友選手がひっくり返しましたよね。彼らは、体が小さいながらも世界のトップチームで確固たる地位を確立してますから。別に、急にフィジカルが強くなったわけではありません。
フットワークの良さを活かして、独特のタイミングとテンポでドリブルするなど、発想が転換されただけで、体が小さければ小さいなりの戦い方があるんです。
西内 日本人なりの戦い方をするってことですね。
中西 はい。だから僕は、西内さんみたいに、サッカー専門ではないんだけれども、統計学のような独自の知見を通して見てくださる方だったりが、もっとたくさん必要だと思うんですよ。
西内 と言いますと?
中西 例えば、相撲だとか、極端に言えば、陶芸をやってる人にサッカーを見てもらって、陶芸の中にある日本らしさをサッカーに投影させていったり。要するに、サッカーだけを見てサッカーを進化させるってことじゃなくて、他の分野のフィルターを通してサッカー見てもらう。
当然サッカー自体を進化させることも大事なんですけど、それ以外の人達に日本らしさっていうフィルターを通してみてもらって、我々はこういう日本らしい強みを持っているよ、これはサッカーにも投影できるんじゃないかな、というようなことを、より増やしていくことが僕は重要だと思います。
—— 中西さんが考える日本人らしさを伺ってもよろしいですか?
中西 失敗から教訓を得てそれを力に変えることができる、ということは日本人の優れてるところだと思います。戦後の急成長や震災の復興など、その勤勉な態度は日本人らしいですよね。
西内 実はそういったこともデータであってですね。