イノベーションは、誰がリーダーで誰が追随者かをはっきりさせる——スティーブ・ジョブズ
iPhone5発売前、KDDI関係者が見せてくれた資料には「社外秘」と書かれていた。その資料は二つの地図からなり、都心をぐるりと囲む山手線の線路に沿って、赤から青まで6段階の色が塗られていた。
「ソフトバンクモバイル」と題された地図は新宿~上野間の北半分でほんの一部に青が見えるのみで、南半分の新宿~東京間には色すら塗られていなかった。対して「au」の地図はほぼ真っ青だった。
実はこれ、iPhone5に導入された高速通信「LTE」の電波の届く強さを示した社内の調査結果である。ネットワークが快適なほど青で表示されており、山手線内ではKDDIに軍配が上がったのだ。事実、ソフトバンクもLTE整備の遅れを認めており、10月中に対策を講じるという。
昨年のiPhone4S対決では劣勢に立たされたKDDIも、今回は攻守を逆転したようだ。
実際、KDDIは30万件超の予約を獲得したようで、なんと昨年の3倍に当たる規模になった。KDDIへの契約の乗り換えがNTTドコモからよりもソフトバンクからのほうが多いというから、昨年とは様相が異なるのだ。
そもそも予約開始の9月14日に緊急会見を開き、先手を打ったのはKDDIだった。iPhoneを介しパソコンなどもインターネット接続ができる「テザリング」の搭載を表明した。ネットワークに余裕がないソフトバンクにはできないサービスとみたのだ。
するとその夜、ソフトバンクは一部の記者らを集め、説明会を開いた。テザリングがない分LTEも定額で使えることや、ネットワークへの対策を幹部が話した。
ただKDDIに顧客が流れているとみるやいなや、19日に孫正義社長が緊急会見を開き、テザリングの解禁を発表した。21日の発売イベントでも、東京23区内の基地局数を対比した表を配布し、数で上回っていることを訴えた。
同じ日、KDDIの田中孝司社長は終始にこやかだった。予約について「予想以上だ。われわれのネットワークへの期待票だろう」と言いのけたのだ。ネットワーク勝負の土俵に引きずり込んだことが効いたのだ。
ソフトバンクは“矛”
KDDIには“盾”
こうして両社の対決が盛り上がりを見せる中、この光景にほくそ笑むのがアップルである。
アップルにとって通信事業者が競えば競うほど端末が売れるからである。ここで、iPhoneが国内の携帯電話市場に与えた影響を振り返りたい。
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