思いもよらないケーシー

物事を始めるには何歳からでも遅くはない、という言葉がありますが、それでも、ある程度年齢を重ねてから新しいことに挑戦する際には大小さまざまな困難に直面します。40代からギターを始めた大槻ケンヂさんも、やはりそれによって思いがけないできごとに遭遇したのだとか。大槻さんいわく「ケーシー高峰現象」なるものが引き起こしたという驚愕のハプニングとは?

 思いもよらぬことをすると人の脳は思いもよらぬ反応をするものである。

 30代の前半に、唐突に空手を始めたことがあった。
 根っから非体育会系であり、そもそも運動神経も根性も皆無の僕が、いきなりそんなことを始めた理由は、いろいろあったがつきつめるなら弾き語りを始めたときとそれは多少似ていたように思う。
 するとどこから聞きつけたのか空手専門誌の編集長が「ならば空手の試合に出ませんか?」と持ちかけてきた。

「いえいえそんな。思いもよらないことですよ」

「大丈夫です。空手の試合経験のない初心者しか出られない大会があるんです。防具もつけるのでケガもしないですよ」

 まさに思いもよらぬ展開となった。

 断りきれず、また「一生に一度くらい空手の試合に出るってアリかもな」と好奇心もあり、出場することとなった。
 グローブ、ヘッドギア、胴にもスネにも防具をつけてボコボコと殴り合うのだが、よりにもよって対戦相手は元プロボクサーであった。
 いざ試合が始まり、左こめかみをフックで殴られるや強い衝撃が走った。アレはどういう神経その他の体内情報伝達なのか?
 反対側の右半身がびりびりと電気を当てられたかのようにしびれたのを今でも感覚として体が記憶している。そしてその瞬間にケーシー高峰のことを思い出したことも。

『ケーシー高峰は正しかった!』

 医事漫談の芸人、ケーシー高峰さんである。
 人生初の空手の試合中、まさかケーシー高峰のことを考えるとは思いもよらなかった。
 ケーシー高峰さんのほとんど放送NGのギャグに、「人は左脳をやられると右半身がマヒをする……これが本当のサノ(左脳)ヨイヨイってんだ」という老人にのみ大爆笑のギャグがあるのだ。それを、左フックをもらって右半身がしびれたときにパッと思い出したということだ。思いもよらぬことをすると人の脳は思いもよらぬ反応をする。

 ついでに似たような話で言えば、今から20年くらい前だったか、喧嘩芸骨法という武道の先生に、遊びで技をかけてもらったことがあった。
 先生は笑いながら僕の手首をほんのちょこっとだけひねった。僕は心で絶叫した。

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小説 FOK46—フォークオーケン46歳

大槻ケンヂ

30年以上音楽活動を続けてきた、ロックミュージシャンの大槻ケンヂ。楽器演奏と歌を歌うのを同時にできないという理由で、ボーカルに徹してきた彼が、2012年、ギターの弾き語りでのソロツアーを始めた。その名も『FOK46(フォークオーケン4...もっと読む

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