ビジネスモデルから見る
アップルの強さの秘密
垂直統合か、水平分業か──。
製造業の経営手法として事あるごとに議論されるテーマだ。
研究開発から設計、試作、量産までの工程を自社で一貫して持つ垂直統合の生産モデルと、開発や製造の各段階で外部に発注して効率化、柔軟化を図る水平分業モデルは、対極的なものづくりのあり方として語られる。
そして、製品の陳腐化のスピードが速いパソコンやデジタル家電の分野では、水平分業こそが競争優位を実現する近道とされてきた。一方、「逆に、垂直統合的ビジネスは“Walled Garden Model(囲い込みモデル)"と呼ばれ、ネガティブなイメージに捉えられてきた。だが、昨今はアップルの成功に刺激されてプラスのイメージで使う人も増えている」と、田中辰雄・慶應義塾大学経済学部准教授は言う。
確かにアップルは、ハイエンド市場で革新的な製品を投入し続けている。そしてこの企業姿勢は、なかなか他社が真似できずにいる。そして、その製品戦略を可能にしているのが、「垂直統合のものづくり構造」であるというわけだ。実際、製品開発はもちろん、アップルはCPUもOSも独自の技術を使用している。
「垂直統合は、他社の裁量が利いてこないので完成度が高くなる。それはブランド価値となり、ハイエンド市場に製品を投入できるというメリットがある」と情報通信総合研究所の雨宮寛二シニアアナリストは説明する。
ハイエンドの製品の場合、垂直統合のほうがよいのか。
しかし考えてみると、「ガラパゴス」と揶揄されてきた日本の携帯電話業界は、通信キャリアと端末メーカーが一体となって協力し合う垂直統合モデルの権化である。ワンセグやおサイフケータイ、iモードなどの機能が満載され、キャリア主導で日本独特の市場がつくり上げられてきた。垂直統合によるハイエンドは実現しているものの、世界市場では通用できずにいる。こうした実態はむしろ批判的に語られてきた。
一体、何が正しいのか。
実はiPhoneのビジネスモデルをよく見ると、単純な垂直統合ではないことがわかる。アップルは垂直統合の中に、巧みに水平分業のモデルを持ち込んでいるのだ(図2‐6参照)。これまでに説明した通り、アップルは自社工場を持たない。端末の製造工程では、部品調達や組み立ては完全に“外”に出している。
ただし、それらの製造委託先が生み出す品質については徹底的に管理する。例えば、アップル自身は工場を持たないとはいえ、アップルの今年度の設備投資は約5500億円の計画で、ソニーの同2100億円と比較しても、大規模な投資をしている。実は、こだわりのデザインや高い品質を実現するために必要な最新の工作機械は、アップルが購入し、製造委託先に貸し出しているのである。
また、アプリの開発もアウトソーシングしている。そのほうが多様かつ大量の品ぞろえが可能になるからだ。そしてここでも、出来上がったアプリについては、アップストアに並べる前に厳しい審査が行われる。アプリの価格は開発者が自由に設定できるが、有料の場合は売り上げの3割をアップルが手数料として徴収する仕組みになっている。
アップルにしてみれば、製品のトータルの完成度を維持するために最も適した構造を取っているにすぎず、垂直統合か水平分業かという単純な発想に基づくものではないのだろう。
iPhoneユーザーも
歓迎するグーグル
さて、アップルのビジネスモデルでもう一つ注目すべきが、「どこでもうけるか」である。これは、ライバルとされるグーグルと比較するとわかりやすい。
グーグルはアンドロイドというスマートフォン用OSを持ち、スマートフォンやタブレット市場では一見、アップルの最大のライバルと思われている。しかし、両社が目指すビジネスは似ているようでまったく違う。
アップルの売り上げのうちiPhoneは46.4%、iPadは26.2%で、合わせて全体の7割以上を占める(2012年4~6月期決算)。粗利益に至っては82.3%をこの二つの製品が生み出している。かつての社名であるアップルコンピュータから「コンピュータ」を取ったのは07年だが、実際、モバイル機器メーカーとしての趣が強くなっている。いずれにしてもアップルはあくまで“メーカー”なのである。
一方、グーグルは広告収入がメインで、12年4~6月期決算では実に85%以上を占める。11年に買収した端末メーカーのモトローラ・モビリティの業績が当期から連結され、それが10%に膨らんだが、それまでは9割以上が広告収入だった。
グーグルのビジネスモデルを一言でいうと、検索サービスや地図、動画などのサービスでユーザーを集め、広告で稼ぐというものだ。つまり、広告を増やせるなら何でもあり。だから、アンドロイドOSも各種サービスも無償で提供する。ということは、iPhoneのユーザーでもグーグルのサービスを使ってくれている限り、グーグルにとっては大歓迎なのだ。
その意味において、アップルとグーグルは純粋なライバル関係とは言い難いのである。