畑正憲(はたまさのり)と呼ぶより、愛称の「ムツゴロウ」さんがしっくりくる。その愛称で出演したフジテレビ系列局の特別番組『ムツゴロウとゆかいな仲間たち』は、一年に5作ほどの放映だったが、1980年12月29日に始まり2001年3月18日までほぼ20年間、お茶の間に動物と自然の姿を届けた。ムツゴロウさんを動物大好きおじさんだと思う人は多い。
確かにムツゴロウさんが動物を愛していることは間違いない。しかしいつからか私は、その愛情のなかに、しかたなく形をもってしまった命の叫びのようなものを感じるようになった。偶然、新聞で読んだムツゴロウさんの若い日の逸話も関連している。
ムツゴロウさんが若い時代、大学院での研究を断念し働こうとしたが、すぐに仕事を失った。そしてたまたま職安の帰り、知り合いの広告代理店の人に会い、医療分野のコピーライターの仕事を勧められた。やってみるととたんに大金が稼げるようになった。どんと詰まれた札束を目の前にした。そうしてみて、お金のためではなく、自分がやりたいことだけしたいとムツゴロウさんは決めたという。
食うに困るような生活をしてきたのに、お金には代えられないものを選んだムツゴロウさんの原点は、少年期から青年期にあり、『ムツゴロウの青春記』に描かれている。
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新しい「古典」を読む
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