第1回】技術が断絶すれば改良すらままならない

世界的な経営コンサルタントであり、オピニオンリーダーである大前研一さんと、『ゼロ――なにもない自分に小さなイチを足していく』(ダイヤモンド社)を刊行したばかりの堀江貴文さんがくり広げる刺激的な対談が始まりました。元原子炉設計者と、現ロケット開発事業者であるエンジニア二人だからこそ語りつくせるテクノロジーの可能性。日本の未来を切り拓くにはどうしたらいいのか。徹底的に語っていただきました。初回は、「技術の断絶」が引き起こす危険性について。最終回の第6回まで一気に、本日から毎日連続更新です!

なぜ大前研一さんは、テレビに出なくなったのか

大前研一(以下、大前)  堀江貴文さんと対談するのは初めてですよね。今日は堀江さんのほうは私にいろいろと技術的なことを質問したい。そして、私も堀江さんに会ってお話したいことがあると思って、この対談が実現しました。

堀江貴文(以下、堀江) 今大前さんは自社ビルのなかに、すごく立派なスタジオを自前で持っていらっしゃいますけど、普段は全然テレビには出ないですよね。

大前 出ないですね。テレビはスポンサーに影響のあることを言うと、すぐにトークが中断されちゃうのが気になってしまうんですよ。

堀江 なにかあったんですか?

大前 たとえば、以前、テレビで東京の水について話をしたことがあるんです。東京で使われている水は、江戸川の下流で活性炭を限界まで使った浄水を使うわけですが、清水トンネルから出た湧き水をそのまま運んできたら東京でもおいしい水が飲めるんですよ。水源からたった200kmで東京に水がくるのに、いまはわざわざ水をボトリングして、販売しています。
 カルフォルニアなんて1500km先の水を運んで使っているので、東京でもそのくらいやってもいいんじゃないかって話をしたんですよね。でも、テレビ局の人から「ストップ!」と言われてしまいました。

堀江 え、おもしろい話なのに。どうしてですか?

大前 その番組のスポンサーが、水を売っている会社だったんです。もう、そういうのばっかりですよ。

堀江 でもそれ、実現する価値のある話ですよね。なんでやらないんでしょうか?

大前 行政区が違うんです。日本の上下水道は市町村単位ですから別の行政区から水を引くことは、簡単にはできないわけです。

堀江 そういう理由ですか……。なんとかできないんですかね。

大前 ちゃんとした政治家とか行政があれば、やるんじゃないですか。徳川家康みたいに、関東全域を治められる人間がいたら、利根川の水を持ってこられるんじゃないですかね。でも、それができる人間がいない。だから、濾過技術で、下流の汚い水を何とか飲めるようにしているっていうのがいまの東京ですからね。

堀江 やればできるのに、もったいない話ですね。

原子力科学者が失われていく危険性

堀江 水不足になってないから、大規模なことまでやろうとしないんでしょうけどね。そもそも、東京の人はあまり水道の水を飲まないですからね。

大前 ちょっと水道を引っ張るだけで、あんなうまい水がここまでくるのに、わざわざフランスの水を汲んで、ボトリングして輸入販売するなんてご苦労さんな話ですよ。ローマ時代に何千キロもアクアダクト(水を流すための橋)を作っていたんだから、できないことないと思うんですけどね。

堀江 できますよね。そういうことを実現しようとをしないのが、僕は問題だと思うんです。今日はまさにこういったテーマでお話をしたいんです。いまの日本人は、技術のことをあまりにもわからなすぎる気がします。1億2000万人のなかの、9割以上が基礎科学や技術についてきちんと理解してないと思うんですよ。

大前 そうですね。

堀江 3・11の原子力発電所のお話なんて、まさに象徴的ですよね。いま、日本の原発では、反原発派みたいな人がたくさんいますよね。みんな「もう、廃炉にしなきゃいけない」とか、言うわけですよ。いま、日本中にそうやって「原子力発電所をやめていきたい」という人がすごく多い。でも、僕はそれは危険なことだと思っています。

大前 と、いいますと?

堀江 このまま廃炉に向けて動いていったら、ただでさえ少ない原子力発電所に関わっている人達のリソースがもっともっと少なくなって、第一線で原子力に関して研究する人が減れば減るほど、最後は二流、三流の研究者しか残らない。知識を持つ人がいなくなることで、より危険なことになるんじゃないかと思うんです。

大前 たしかにアメリカなんかだと、1979年に起こったスリーマイル島の事故の後は原子力を専攻する若者がほとんどいなくなりました。実際に新しい原子炉の設計はまったくなくなっていますからね。

堀江 大前さんは、40年前までは原子炉の設計をなさっていたんですよね。

大前 スリーマイルのあと、原子力を専攻する若者がいなくなった結果、アメリカの原子力技術者っていうのはほぼいなくなってしまいました。結局、いま原子炉はアメリカでも新しく作ろうという動きがあるけど、エンジニアがいないんです。
 私はマサチューセッツ工科大学大学院原子力工学科出身ですが、私が学生だった1960年台後半はこの学部は花型中の花型の学部で、クラスに130人も生徒がいたんですよ。それが最近は15人しかいない。しかもそのなかで、アメリカ人はゼロ。

堀江 原子力を学ぶ学生自体が、だいぶ減ってしまったんですね……。

大前 結局、原子力は産業自身がなくなってしまいました。最近、ようやく原子炉を新しく作ろうというムードになったけれども、人がいないんで、結局東芝とウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニー(※)の作った「AP1000」という原子炉を選んでいるようです。これはこれで、素晴らしい原子炉なんですけれども、人材がいないので自国で作ることはもうできなくなってます。※ウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニー:核燃料、サービスとメンテナンス、制御と計測、原子炉の設計など、原子力関連の製品の販売やサービスを行う多国籍原子力関連企業。現在、東芝のグループ会社になっている。

堀江 日本では、原子力技術をどこが引き継いでいたんですか。

大前 三菱重工や東芝とか日立がやっていましたね。

堀江 もともとはGEとかからもってきた技術なんですよね?

大前 そうですね。ライセンスはGEがもっていたんです。

堀江 そこから独自技術にして、次第に原子力技術を自分のものにしていったわけですよね。ただ、そこは「技術の断絶」はなかったんですか?

大前 日本の場合は幸いいままでなかったんです。でも、やはり福島第一原発の分析をしてみると、GEの原子炉はすばらしい設計なんですけど、日本の環境をあまり考慮していない。つまり、大きな地震とか津波を想定した対応ができていないわけです。

堀江 なるほど。アメリカでの使用を想定しての技術なんでしょうから、当然といえば、当然ですね。

福島原発事故の問題は
「誰もが当事者意識を持っていなかった」こと

大前 これは、みんなが原発について意外なほど知識がなかったことが問題ですよね。基本的なことで言うと、原発の水蒸気放出装置であるIC(非常用復水器)の問題。これは、通常使っているポンプが電源を失って圧力が高くなりすぎて危険な時に、蒸気を外に出すわけなんですが、その前に温度を下げるために水槽の水で冷やしてから放出する、という装置です。このバルブには2種類のタイプがあって、全電源が失われたときにバルブが自動で閉まるフェイルクローズドと、バルブが自動で開くフェイルオープンがあるんです。フェイルクローズドだと壊れた時に弁が開かないので、蒸気が放出されない。
 今回の福島原発で言えば、2号機以降はフェイルオープンだったけれども、1号機だけフェイルクローズドだったんです。当時の所長の吉田昌郎さんもいろいろ試行錯誤したようですが、こういったごく基本的なしくみも共有できていなかったんですよね。

堀江 世の中の普通の人たちは、技術の問題に対して「頭のいい専門家の人たちが作った素晴らしい機械だから、どんなときにもちゃんと最適な動作をするはずだ」って勝手に思い込んじゃっていると思うんです。また、なんの疑いもなしに「原子力発電所の運営をしている人たちは、専門家なんだからシステムのすべてを知っているだろう」って思い込んでいますよね。
 震災当時の首相だった菅直人さんぐらいの地位にある人でも、そのくらいのことを思っていますよね。

大前 菅直人さんは、むしろそこまでの理解もしていないと思いますよ(笑)。彼は東工大の後輩だから、原発事故の際に私はすぐに呼ばれていったんですけどね。
 実際、あのとき菅さんが対策として第一声に何をしたかというと、「電源車はないのか」と言ったんです。ただ、日本の電源車って、220ボルトなんですね。一方、GEの作った原子炉は660ボルトの設定になっているんです。

堀江 じゃあ、せっかく電源車を持って行っても、使えないっていうことですよね。

大前 そう。本来、非常事態に駆けつけられる電源車が220ボルトなんだったら、原発だって220ボルトで作ればよかったんです。GEの設計した660ボルトの原子炉のままで、何の検討もなく、そのままにしていたって言うのがそもそもの問題。これは日本の怠慢だと思うし、GEだってお客さんにあわせてそのくらいのことをやっとかなきゃいけないと思いますよ。

堀江 その通りですね。でも、660ボルトの電源車はなかったんですか?

大前 660ボルトの電源車は新潟の柏崎原発にあったんです。ところが、これが大きすぎて運べなかった。でも一番の問題は、誰も原発の問題に対して当事者意識を持っていなくて、実質第三者のままでいたんだなということがわかっちゃったことでしょうね。

堀江 それがすべての問題の根本ですよね。これは、技術の断絶の問題にも共通すると思うんです。技術って新しいテクノロジーをその最先端の頭の良い技術者が、ある程度の期間やり続けないとうまく伝承していかない。技術が断絶してしまえば、悪い部分を改良していくことも難しくなるじゃないですか。
 たとえば自動車業界だって、優秀な技術者がある一定期間同じプロジェクトに関わっているからこそ、常に新型の車ができて、EV(電気自動車)やハイブリットなんかの新しい技術が常にでてくるわけで。僕がいまやっているロケット事業も似たようなところがあるんです。

「墜落するから危ない」と製造を中止していたら、
いまも飛行機は飛んでいない

堀江 たとえば、アメリカではスペースシャトル以降、ロケットを作っていないんですよ。つまり、40年間ぐらいロケットエンジンを作ってなかったから、いまではもう新しいエンジンを作れないんですよね。
 アメリカの主力ロケットといえば、アトラスシリーズです。でも、最新のアトラスⅤで使っているのは、ロシアのRD-180っていうエンジンです。このエンジンの部品の一部はアメリカで製造できないんですよね。それは、ロシアのほうの技術が優れていて、アメリカでこんな型番の金属を作れなかったんです。結局ロシアから特許も含めて買収したにもかかわらず、いまだにロシアで部品を作っているといった状況があるんですよ。

大前 なるほど。

堀江 いま、僕らは、いちからロケットを作っているんです。でも、エンジンから作ろうと思うと、なかなかそれは難しい。たとえば、タンクのなかに液体窒素を入れるなんていう基本的なことすら、できないんです。

大前 あれ、常温下だと液体窒素が沸騰しちゃうから、難しいんですよね。なかなか入っていかなくて。

堀江 そうなんです。圧力を加えた状態で入れなきゃいけないんですが、そういうプリミティブなことだって、実験したことがないとできない。液体窒素をいきなり圧力容器に入れるなんてシチュエーションは、ロケット以外にありえないですから。

大前 リニアモーターカーも近いことやっていますよね。

堀江 それこそ、リニアモーターカーも液体ヘリウムを使ってますよね。いまは高温超電導の合金ができたんで、将来的には冷凍機による直接冷却でも大丈夫になるみたいですけど。あれも一緒ですよね。ああいう、高圧の容器に極低温の液体を入れるなんてシチュエーション、誰もやったことがないから。

大前 やり方がわからないっていうところから、話から始まるんですよね。

堀江 そこが技術の断絶について、すごく大事なポイントで。今回、反原発の人たちを見て思ったのが、「彼らはそのことを全く理解していないのかもしれない」ということ。日本にはまだ使用済み核燃料とかがいっぱいあるわけじゃないですか。そこで、日本の原子力技術の断絶が起きたら、その処理方法すらわからなくなってしまう。これからメンテナンスが重要になるのに、一流でない技術者だけが残って、粛々とやっていくのが一番危ない状況ですよね。

大前 おっしゃるとおり。たとえば、いま原子炉が作れる会社は本当に少ないんです。フランスのアレヴァ。それに、アメリカではかろうじてGEがやっています。あとはウェスティングハウスに東芝。三菱に日立。これで終わりなんです。

堀江 圧倒的に少ないですよね。

大前 さきほど堀江さんが言ったとおりで、事故が起こった後、「だからやめよう」っていうのは敗北思想なんですよ。でも科学の歴史はそこから学んで、これからどうやってこういうものを防げるのかって考えて進歩していくものだから。この発想がなかったら、1954年に起こった、世界最初のジェット旅客機だったイギリスのデ・ハビランド社製のコメット連続墜落事故以降、飛行機は飛んでいなかったはずなんです。でも、この事故のおかげで、金属疲労の盲点が理解できて、それで事故のたびに安全になっていくわけです。

堀江 技術には、そういった積み重ねが重要なんですよね。


(明日の更新に続きます)
構成:藤村はるな


本対談の動画は大前研一さんが代表を務める ㈱ビジネス・ブレークスルーの特設サイトでも配信されています。 是非ご覧ください。

◆特設サイト(ダイジェスト動画もご覧いただけます)
http://www.bbt757.com/news_release/lp/horie.html

ケイクス

この連載について

本気のテクノロジーが世界を変える—大前研一×堀江貴文 対談

大前研一 /堀江貴文

世界的な経営コンサルタントであり、オピニオンリーダーである大前研一さんと、『ゼロ――なにもない自分に小さなイチを足していく』(ダイヤモンド社)を刊行したばかりの堀江貴文さんがくり広げる刺激的な対談が始まりました。元原子炉設計者と、現ロ...もっと読む

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コメント

howldog2006  これおもしろいなぁ 約3年前 replyretweetfavorite

speedmod 大前研一さんカッコ良過ぎ。これは心酔する 3年以上前 replyretweetfavorite

renostrummer おもろすぎ 【】https://t.co/nyjXkSE7Ee 5年弱前 replyretweetfavorite

skayano 大前研一氏が都知事ってのはいいかも。 “@cakes_PR: 大前研一 / 堀江貴文@takapon_jp|本気のテクノロジーが世界を変える——大前研一×堀江貴文 対談 【】https://t.co/JzusJOOhTf” 5年弱前 replyretweetfavorite