ご無沙汰。しばらく日本にいない時期が続いたので、日本でどんな本が出ているのかもつかめず、さらに読もうと思ってこちらに持ってきた本はいまひとつのものが多くて、途中が少し空きました。申し訳ない。
が、持っていった中でめぼしいものとしては、デニス・シャシャ、キャシー・ラゼール『生物化するコンピュータ』(講談社)がある。いま、いろんな分野——金融、医療から工学などなど——で、従来のデジタルで機械的なアプローチに加えて、生物の行動や自然現象を参考にして取り入れようとする動きがある。そんな最先端の動きを、16人の研究者に焦点をあて、その個人史まで含めてあれこれ説明することで解説した本がこれだ。
たとえば人間は怪我をすれば、ある程度は自力で勝手に直る。機械や既存のコンピュータはそうはいかない。ムカデやゲジゲジは無数の足を整然と使って動くけれど、それをプログラミングするのは実に面倒だ。大した頭も神経系も持たない昆虫は、はるかに計算力があるはずのロボットよりも実にスムーズかつ見事に動く。自分で学び、勝手に動き、解決策を見つける。これを機械に取り入れてやらせることはできないものか? すぐにモノになる技術ではないにしても、分野全体の大きな動きから、今後重要になりそうな思いつきを拾い出す著者の目の付け所は、大したものだ。いますぐどうこうという技術ではないけれど、今後半世紀くらいで、ここに挙がったいくつかは重要なアプローチとして出てきそう。世界を常に本当に変えてきたのは技術なのだから。
その一方で、多くの日本人はいま「技術」というとすぐに原発の話に頭がいく。それについておもしろかったのが、東浩紀編『福島第一原発観光地化計画』(ゲンロン)。福島の原発跡地をどうするかは、今後あの事故とどう向き合うかを考える中でも重要。それについて、観光地化して廃墟/事故地観光により地域の再生と記憶の持続をはかろうという話だ。
着想は非常におもしろいし、それを具体的にどうやるか、何をどう見世物にして行くかについて、建築的なアプローチやデザイン、廃炉のやり方との関係、地域復興との関わりまで、思いつきの羅列にとどまらないかなりしっかりした検討が行われている。どんな施設を置いたらいいか、アクセスはどうする、そして(くだらないけれどかならず問題になる)不謹慎じゃないかとかいう揚げ足取りとどう向き合うかについての考察がなされているのだ。
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