茨城県水戸市の観光地といえば、まずは偕楽園が浮かびます。金沢の兼六園、岡山の後楽園と並んで、日本の三大名園として名高いものです。
その名勝・偕楽園と並ぶとまで言えるかどうかはわかりませんが、水戸には近年、広く人を呼び寄せる場所がもうひとつ。JR水戸駅からも近い、水戸芸術館です。磯崎新が設計した建築で、敷地内には巨大なタワーが聳え立ち、地域のランドマークとしてもよく目立っていますよ。
館内のギャラリーでは主に現代アートを扱っていて、オリジナリティあふれる企画展が頻繁に開かれています。現在開催中の「ダレン・アーモンド 追考」も、ここでしか味わえない体験ができる展示となっていますよ。
ダレン・アーモンドは1971年生まれ。英国中部の炭鉱町ウィガンで育った影響もあるのでしょうか、映像、写真、オブジェなどを組み合わせた作品はスタイリッシュでありながら、どこか哀愁や人肌の温もりのようなものも強く感じさせます。
たとえば、暗い室内で何本もの映像を同時に上映する《Traction》という作品。メインの映像は、自身の父親にインタビューしたものです。画面のなかで彼の父親は、身体のあちこちに残る傷について話をしています。数々のエピソードを通して、炭鉱町に生きる人々の暮らしぶりが浮き彫りにされていきます。アップで映し出された父親の憂いを帯びた顔。訥々と思い出を語る、しわがれた小さな声。わたくしたちにとっては見知らぬ人物なのに、映像と対面していると、なぜか懐かしさと切なさで胸がいっぱいになってしまいます。
《Traction》1999年 (展示風景), Courtesy Galerie Max Hetzler, Berlin / Jay Joplin White Cube, London / the artist
比叡山で古くから続く厳しい修行、「千日回峰行」を追いかけた映像で構成されるのは、《Sometimes Still》という作品。暗闇のなかにぼんやりと山中の僧の姿が浮かび、経を唱える低い声が展示室内に響きます。
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