第26回】ザックジャパン、サイドバック論争! オランダ&ベルギー戦(後編)①

前編に引き続き、後編も「オランダ&ベルギー戦」を振り返ります。今回のテーマはサイドバックのレギュラー争い。サイドバックといえば、守備だけでなく、積極的な攻撃参加が求められる重要なポジション。ザックジャパンでは、長友佑都、内田篤人がスタメンとなることが多いですが、そんな2人にも弱点はあります。そこでスポットライトが当たるのが、酒井高徳と酒井宏樹。今回は、サイドバック4人の個性をふまえつつ、それぞれのパフォーマンスを検証し、今後のレギュラー争いの行方を考えていきます。清水さんによる「徹底図解サイドバックの観方」。

何かをブチ破った内田篤人。喜びの裏には…

さて。これよりオランダ&ベルギーの感想戦、後半へ突入!(前編はこちら
まずはサイドバック論争から。

今年の6月のコンフェデレーションズカップの少し前くらいから、サイドバックの人選については注目していた。長友佑都、内田篤人は経験豊富なサイドバックだけど、世界で活躍する2人にも弱点はある。前者の長友はビルドアップ時のパスがあまりうまくない。パスの受け手として上下動をさせれば、スピード、スタミナ、タイミングの取り方、すべてがワールドクラスだろう。1対1で地上戦の守備をさせてもワールドクラス。つまり“ボールを持たなければ”ワールドクラスか。

いや、“ボールを持たなければ”とは言ったが、敵陣に入ってからは違う。仕掛けの場面では、コーナーフラッグ側へ相手から逃げるようにボールを持ち出し、腰をグイッと回して左足で蹴るクロスが得意技。また、ファーストタッチで持ち出して相手を揺さぶったり、そういうプレーも見るたびに向上している。『仕掛け』に関しては、ボールを持ってからもワールドクラスと言ってもいいだろう。そのうえ、中央に入りたがる香川が空けたスペースへ勢い良く上がっていくという意味でも、 システム上の相性が良く、長友の左サイドバックは日本の武器になっていた。

一方、後者の内田はビルドアップに関しては良いパスを出しつつも、逆に『仕掛け』の部分が弱かった。

内田にも長友と同様、“ボールを持たなければ”ワールドクラスといった側面はある。オフザボールの動きは攻守共に良い。自分にできることと、できないことが良くわかっている賢い選手なので、大きなミスが少なく、安定感がある。(もっとも今回はオランダ戦でやらかしてしまったが)

25歳の内田に、僕は大ベテランのような風格さえ感じている。というのも、高卒で加入した鹿島アントラーズでは1年目からレギュラー。そしてU-20日本代表、北京オリンピック代表と国際大会で経験を積み、さらに2008年にはすぐにA代表に抜擢。
ザックジャパンの中では比較的順調に育ってきたタイプであるため、年齢の割に経験してきた舞台の数が多い。

たとえば1対1のシーンで重要になるのは間合いだが、内田は「ここまで詰めたらやられる」というバランス感覚を、たくさんの経験と生来備える賢さの相乗効果によってさらに磨き上げてきた。リベリーやネイマールといったスター選手と渡り合えたのも、その辺りに要因がある。

ただし、長友との大きな違いはすでに述べたように仕掛けの部分だ。内田本人も以前から、「守備はいいけど、自分の課題は攻撃面」と語っていた。ボールを持って、オンザボールで仕掛けられるタイプではなく、マークされると、それ以上できることがなくなってしまう。運動量に関しても、サイドをダイナミックに上下動する長友ほどの活動量はない。

ザックジャパンの攻撃と言えば、就任当初から左サイドの突破がストロングポイントになっていた。しかし、そればかりでは相手にワンサイドに絞って対応されてしまう。セルビア戦などが典型的な例だ。

そうなると右サイドからも行きたいが、内田の前方にいるサイドハーフが岡崎慎司という関係もある。セルビア&ベラルーシ戦後の居酒屋サッカー論でも書いたが、右サイドの攻撃を活性化させる上で、岡崎のサイドハーフ起用にはビルドアップ時のノッキングが増えるという難点がある。岡崎がコントロールにもたつき、ボールを奪われることも少なくないので、そうなると内田はオーバーラップで追い越していくタイミングをつかみづらい。

シャルケではファルファンと絶妙な縦のコンビネーションを築いていたが、あれくらいボールを持てて、仕掛けられるサイドハーフが相手の注意を引きつけてくれれば、内田は自分がフリーになるタイミングを感じて上がって行ける。相性が良いのだ。岡田ジャパンで良いときも、中村俊輔が同様のプレーで相手を引きつけ、スペースを空けていた。

しかし、岡崎はそこまでボールを持てるタイプでもないので、ならば、内田みずからがボールを持って仕掛け、一人称で右サイドを活性化させたいところ。それが内田の課題だった。

一方、そこに名乗りを挙げていたのが酒井高徳。

昨年11月のオマーン戦では、シザーズ突破からのクロスで岡崎の決勝点をアシストするなど、ボールを持ってからの仕掛けをむしろ得意とする選手だ。酒井高の場合は内田とはまったく逆に、「僕の課題は守備です」と以前から言っていた。
相反する課題を持つ2人だけに、内田vs酒井高のレギュラー争いには以前から興味を持っていた。9月のグアテマラ&ガーナ戦では、グアテマラ戦で酒井高がフル出場、ガーナ戦はスタメンこそ内田だったが、後半早々に酒井高に交代。2戦通しての右サイドバックとしての出場時間は酒井高のほうが長かった。

内田の攻撃、酒井高の守備。果たして、それぞれの課題に先に答えを出すのはどちらか!?

と思っていたが、その答えは残酷だった…。オランダ戦&ベルギー戦でハッキリと明暗が分かれた2人のシーンについて見ていこう。

痛恨の“待ち受け”を披露した酒井高徳

ベルギー戦の前半15分、日本の失点は酒井宏樹から本田圭佑へのパスが奪われたところから始まった。
普段は左サイドに置くエデン・アザールを、トップ下に置いたベルギー代表のヴィルモッツ監督。今回の日本戦については、新たなやり方をテストするための布陣を敷いたと言っていた。

そのねらいは明確。かみ合わせの図を見ていただこう。

システムは4-2-3-1だが、ベルギーの両サイドハーフを務めるミララスとマルティンスは下がり気味。守備ブロックを作って低い位置に待ち構え、日本をロングカウンターで仕留めるようなシステムを敷いてきた。この場合は、攻撃性を生かしたいアザールをサイドハーフには置かず、カウンターの基点となるようにトップ下に置いて守備の負担も軽くする。

MFとDFの間をコンパクトにして、日本が2列目の攻撃的MFへ入れる縦パスに対して激しく寄せ、 ここをボールの奪いどころに設定する。そしてボールを奪ったら、すぐにミララス、マルティンスは勢い良く前へ走り出し、1トップのルカク、トップ下のアザールを含めた4人がカウンターへ。

このベルギーのねらいが、先制点を生み出した。酒井宏から本田へのパスをカットしたボールがアザールに渡り、素早く左サイドへ斜めに走り抜けたルカクへ縦パス。ここでGK川島永嗣の状況判断のミスもあり、フリーになったルカクがボールを折り返すと、日本はさらにミスを重ねた。マークするべきミララスを見失った酒井高は、ボールをその場で待ち構えて処理しようとし、ミララスに前に入られてしまった。そして無人のゴールへ流し込まれた。致命的なミスだ。

どうしてもDFは、可能ならば立ち止まってボールを処理したくなるもの。なぜなら、ボールに寄りながらクリアしようとすれば、動いている分、技術的なミスが出やすくなるからだ。
たとえばクロスに対してその場に立ち止まってヘディングでクリアしようとしたDFが、その鼻先で相手に入り込まれてゴールに叩き込まれる場面はすごく多い。逆に岡崎などはそうやって決めるゴールが得意だ。

DFの泣き所ではあるが、とはいえ今回はボールの勢いも緩いので、技術的なミスは出にくいはず。しかもボールがゆるい分、相手に走り込まれる時間も長い。ミラ ラスのマークを見失っているのなら、せめて酒井高は全速力でボールに寄って処理するべきだったが、それを怠ってしまった。

失点した瞬間、吉田は激昂したが、酒井高はリアクションをせず。明らかに呆然としている様子だった。ふたたびキックオフするときには、左ボランチのキャプテン長谷部が「パン!パン!」と手を叩いて切り替えを促したが、ここでも酒井高は長谷部のほうを向かず、無反応。
心配した長谷部がもう一歩、酒井高に近寄ろうとしたが、それを止めた。すぐにキックオフされるためか、あるいはこれ以上言っても逆効果と思ったのか、長谷部はすぐに踵を返して自分のポジションに戻った。

試合後のミックスゾーン。酒井高は、「正直言って試合中ずっと引きずっていました」と正直に答えた。ステキすぎるくらい素直で、正直なナイスガイだから、個人的にはとっても好きな選手。本当に。

だけど、この失点場面だけは、プロとして恥ずかしいプレーだったと言わざるを得ない…。ベルギーのテレビ番組でも、このシーンに関してはミララスに入られた瞬間の酒井高に対して、まるで舞台照明のスポットライトのように強調する演出を施し、そのミスについて指摘していた。

振り返れば、オランダ戦でも内田のミスで1失点目を喫するまでに、長谷部や山口螢がボールを奪われてカウンターを受けるなど、数々のミスが重なっていた。1度や2度のミスならオッケーでも、それを3回、4回と続けると、このレベルではもう見逃してはもらえず、グサッと突き刺さる。ベルギー戦も、川島の判断ミスだけならカバーすることもできたが、そこに酒井高がミスを重ねてしまったのが致命的だった。

酒井高が『課題』と語っていた守備は、むしろ不安が増してしまった。この試合だけでなく、シュトゥットガルトでもこのようなミスで失点に絡むことが少なくない。正直、今の状況ではスタメンから使うのはリスクが大きい。そういうネガティブイメージは残してしまったと思う。
とはいえ、その後のプレーは悪くなかった。本人は「試合中ずっと引きずっていた」とは言っていたけど、攻撃でも本田のゴールにつながるパスを遠藤に通すなど、ストロングポイントは生かしたと思う。

とはいえ、左サイドで香川真司の後ろでプレーすると、香川に気持ち良くプレーさせることに意識がいくためか、「本当はもっと攻撃できる選手なんだけどな…」という消化不良感は、正直残ってしまう。もったいない。清武を使う場合に組み合わせるか、あるいは…。

ザックは一度のミスで見限るタイプでもないし、一度の成功で持ち上げるタイプでもない。ただ、これは酒井高の個人戦術の問題なので、代表チームでなんとかしてもらう話ではない。シュトゥットガルトで、あるいはパーソナルトレーニングで、何とか解決してもらいたい課題だ。
そして、そんな酒井高に対して『明』のほうに回ったのが内田だ。

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居酒屋サッカー論 ~誰でもわかる深いサッカーの観方~

清水英斗

「ボールだけを見ていても、サッカーの本当の面白さはわからない!」日本代表戦や欧州サッカーなどを題材に居酒屋のサッカー談義を盛り上げる「サッカー観戦術」を解説します。「サッカー観戦力が高まる」の著者、清水英斗さんによる、テレビ中継の解説...もっと読む

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コメント

chinmo @toshi3221 https://t.co/GyT59SorMn かな 5年弱前 replyretweetfavorite

kyo6S0422 https://t.co/oAFnFDijDS 【 第26回】ザックジャパン、サイドバック論争! オランダ&ベルギー戦(後編)① 5年弱前 replyretweetfavorite

m_um_u [今なら無料!] 5年弱前 replyretweetfavorite

n02u0_2 清水さん、またまたキレてます! 5年弱前 replyretweetfavorite