第25回】ザックジャパンの劇的な変化の理由とは? オランダ&ベルギー戦(前編)

今回も日本代表を徹底図解! 11/16に行われたオランダ戦と、11/20に行われたベルギー戦を振り返ります。結果はご存じのとおり、オランダには2-2の引き分け、ベルギーには3-2と逆転勝ち。直前のセルビア、ベラルーシ戦での不振からは想像できない結果でした。どうしてザックジャパンはここまで変わることができたのでしょうか? 得点シーン、フォーメーション図を使って掘り下げていきます。

シード国が2つも名を連ねた『新鋭シリーズ』

欧州のベルギー、南米のコロンビア、アジアの日本。近年の成長著しいそれぞれの地域の『新鋭国』に、強豪オランダを加えた4カ国がしのぎを削る11月のAマッチ2連戦―。

という位置付けで、このマッチメークをとらえてみた。

オランダとベルギー、日本とコロンビアの対戦はなかったが、『新鋭シリーズ』を振り返ると、日本がオランダに2-2の引き分け、ベルギーに3-2で勝利を収めて1勝1分け。コロンビアはベルギーに2-0で勝利、オランダに0-0引き分けと、こちらも1勝1分け。オランダは2分け、そしてFIFAランク5位と前評判の高かったベルギーは、2敗で沈んだ。

みずから日本を『新鋭』と表現するのも気恥ずかしいが、海外の監督、メディア、ファンの反応を見ている限り、周囲からはそう捉えられつつあるようだ。本田のコメントじゃないけど、あんないい試合をしたら、絶対にワールドカップでマークされると思う…。まあ、それも楽しみではあるけど!

ちなみにベルギーとコロンビアは、どちらもブラジルワールドカップの第一シード国様だ。現行のFIFAランキングは、ここ1年間の公式戦の成績がもっとも強く反映されるため、大舞台で活躍しそうな歴史あるサッカー大国というよりも、「最近イイ感じらしいじゃん?」といった勢いのある国がランキングをぐいぐいと上げる傾向にある。その結果、各大陸予選で好調のベルギーやコロンビアが順位を上げ、逆にオランダやイタリアといった大国がぎりぎりシード枠から漏れたりもしている。

一方、日本はどうかと言えば。

アジア相手の試合に勝って得られたポイントには、0.86の係数がかけられ、減点されるルールになっている(欧州や南米はそのまま)。なんてこった。しかもアジア予選は2012年6月に始まるため、2013年10月時点で獲得した“ここ1年”の公式戦に、アジア最終予選の数試合分が入らない。つまり、現行ルールの場合、アジアではFIFAランキングを上げるのが非常に難しく、日本が単体でどんなに勝利を収めても、第一シードにまで届く可能性はかなり低い。

『ワールドカップ優勝』を見据えるなら、グループリーグで第一シードに入ることも大事。だけど、それを果たすためには日本だけじゃなく、アジア全体でレベルアップして地位を高めないと…。となると、最近Jリーグが急ピッチで進めている『アジア戦略』が大きな意味を持ってくるのだろうか。

オンもオフも含めて、ファン・デル・ファールト

といった未来への妄想もそこそこに、まずは目先の話から。今回のオランダ戦とベルギー戦について感想戦を始めよう。

この2連戦を思い返すと、やっぱりオランダ戦の前半終了間際に決めた大迫勇也の先制ゴールがいちばん大きかったというのが正直な想いだ。なぜなら、オランダ戦で前半に0-2と差をつけられた時点でのスタジアムの雰囲気があまりにも重苦しかったから…。

最初の失点はこんな形だった。

まったく、憎らしいのはファン・デル・ファールトだ! 足元のテクニックがうまいのはもちろんだが、オフザボールのポジショニングも絶妙。相手にとってイヤなところに的確にポジションを取ってくる。
キックオフ直後の日本は、攻撃も悪くなかったし、守備のやり方もハッキリしていた。基本的なかみ合わせはこんな形だ。

ファン・デル・ファールトを山口螢が見て、ストロートマンを長谷部誠が見る形。オランダのセンターバックとデ・ヨンクの3人に対しては、大迫と本田圭佑が連係して寄せて行く。

各所がかみ合いやすい両チームのシステムではあるが、この形を保ってしまうと、日本は一方的にオランダの攻撃を待ち受けることになる。なぜなら、大迫と本田のところで相手の数的優位ができているからだ。オランダはここでセンターバックのどちらかがフリーになり、そこを起点にボールを運んでくる。
(そのぶん、日本は最終ラインの今野と吉田のところで数的優位)。

それでも日本はディフェンスラインや中盤が、オランダの縦パスの受け手をそれぞれが1対1でつかまえ、我慢強くマークにつくことで耐えた。各所で数合わせがかみ合っているために、そこでマークを外さない限りは、大きく崩されることはない。
(ただし、日本は攻撃で安易なミスが多かったために、攻守の切り替えの瞬間にマークが置き去りになり、危険を迎える場面も起こったが)

ミスからカウンターを食らう場面を除けば、そこそこ守備対応できていた日本。ところがここで不穏な動きを見せたのが、ファン・デル・ファールトだった。山口にマークされていたオランダのテクニシャンが動き、徐々に山口の背後にポジションを取り始める。そして、日本のディフェンスラインのすき間を伺うような動きを何回か見せていく。

吉田麻也は今野泰幸と共にシーム・デ・ヨンクをマークしているし、内田篤人はレンスをマークしている。吉田、山口、内田のちょうど中間辺りをフラフラと徘徊するようにポジションを取ってくるファン・デル・ファールト。山口がそのまま付いてズルズル下がると、最終ラインに吸収されて中盤が薄くなるので、そこまでは追わない。
(まあ、追ってきたら追ってきたらで、ファン・デル・ファールトは薄くなった日本の中盤に、自分以外の他の選手が入ってくるように指示をするのだろうと思うが)

すると前半13分、日本に事故が起きた。内田篤人の処理ミスだ。ファン・デル・ファールトに送られたロングパスを処理しようとするが、内田にはここで迷いが出た。タッチライン際に逃げると、自分がマークしていたレンスに捕まる危険がある。前方の山口へのパスコースは空いていたが、ファン・デル・ファールトに寄せられてそこを見る余裕がない。吉田へのパスコースもナシだ。なぜなら、内田と共に吉田もボールに反応しているため、パスを受け取る準備はできていない。そして迷った挙句のヘディングは、GKへのバックパス。これが最悪の場所に落ちた。

もちろんミスはミスだが、それを誘発させるためにかみ合わせをずらす動きを、ファン・デル・ファールトが行っていたのは大きなポイントだ。

ちなみにオランダ語で『ファールト』は、町と町をつなぐ『運河』を意味するらしい。10番ファン・デル・ファールトは、まさにオランダチームの美しいパス回しの運河を象徴するような存在だった。
まあ、日本にも『ホンダ』がいるわけだが…。船と車、優雅さでは負けたかもしれない。

そして1失点後、山口はよりファン・デル・ファールトを近めの位置でマークするようになった。内田がレンスに裏を取られる場面などでピンチもあったが、守備は全体的に落ち着き、0-1の時間が続いていく。

オランダの練習はウソをつかなかった

ところが前半39分、再び試合が動く。またもファン・デル・ファールトだ。レンスからのパスをジャンピング胸トラップし、ボールの落ち際をボレーキックでサイドチェンジ。そこからロッベンが得意の左足でミドルシュートを突き刺した。

ワールドクラスの共演でスーパーゴールが決まり、0-2と突き放されたとき、僕は思わず頭を抱えた。「ああ…、まだザックジャパンはこのサイクルから抜け出せないのか」と。

少し話はそれるが、前日練習でオランダを見ているとき、僕はあるシーンがとても印象に残っていた。それはウォーミングアップで、味方にワンタッチでパスを出してマーカーの間を移動する、『パス&コントロール』と呼ばれる練習をしているときだ。

ある選手からロッベンへのパスが少しずれたり、浮いたりする。するとロッベンはそれをボレーパスで叩きつけて次の選手へ。いや、パスというより、ほとんどボレーシュートみたいな強さだ。「どうだ!? コントロールできるもんならしてみろ!」と言わんばかりに。だけど、ボールは正確に味方の足元へ蹴られているので、誰も文句が言えない。

そうかと思えば、ファン・デル・ファールトはわざと回転をかけて取りにくい、意地悪なパスを出してみたり、とにかくこの2人はいろいろパス&コントロールの中に仕掛けてくる。日本人なら淡々と、正確に流れを乱さないように、それだけを意識するところだが。

余談だがオランダ人の子どもは、2人でサッカーボールを持って遊ぶとき、わざとボールを強く蹴ってそれをコントロールできなかったほうが負け、というような遊び方をすると聞いたことがある。

そんな彼らの習慣が影響しているのか、オランダはトラップとキックの質が非常に高い。ウイングがタッチラインいっぱいに開き、スペースを広く使うサッカーであるため、必然、パスの距離が長くなりがち。それを正確に強いボールを蹴り、さらに正確に止める技術は、明らかに日本よりも高いように感じた。練習はウソをつかなかった。

プレッシング・スロットルの転換点

話をロッベンのゴールに戻そう。あのゴールは誰がどう見てもスーパーゴール。ファン・デル・ファールトのサイドチェンジも規格外だった。どんなに一生懸命に守っていても、このチームはいつでもスーパープレーで“1点を”挙げる可能性をもっている。南アフリカワールドカップで、素晴らしく集中したブロックを作り続けた日本が、スナイデルにミドルシュートを突き刺されて1-0で敗れたように。

オランダのような個人の力が強いチームに、どこかでポコッと1点を失ってしまうことは仕方がない。だったら、最初から2-1で勝とうと思っておけばいい。しかし今回の日本は1失点目をイージーに喫しているだけに、このスーパーゴールのショックは大きかったはずだ。

そういう意味で、その5分後、前半44分に決めた大迫のゴールがなければハーフタイムのロッカールームは暗いものになっていただろうし、その後のベルギー戦を含めて、もしかしたら日本は全く違う結果になっていたのかもしれない。10月の欧州予選では、それを立て直せなかったハンガリーがオランダに怒涛の8失点を喫している。

正直に言おう。僕は試合中、その記憶もチラッと脳裏をよぎった。選手には申し訳ないんだけど…。

というわけで、特に美しいゴールというわけではないが、2戦5得点の中でもっとも重要な価値を持っていたこのゴールを振り返っておこう。

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清水英斗

「ボールだけを見ていても、サッカーの本当の面白さはわからない!」日本代表戦や欧州サッカーなどを題材に居酒屋のサッカー談義を盛り上げる「サッカー観戦術」を解説します。「サッカー観戦力が高まる」の著者、清水英斗さんによる、テレビ中継の解説...もっと読む

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コメント

wakamekawa [今なら無料!] 5年弱前 replyretweetfavorite

inamura_do 試合は見ていなかったけど、文章だけで面白く読めた。 『ザックジャパンの劇的な変化の理由とは? オランダ&ベルギー戦(前編)』 https://t.co/nCyYzKgocV 5年弱前 replyretweetfavorite

mayugeken いやー清水さんの解説いつも、おもろいわ! 5年弱前 replyretweetfavorite

ikedashoten 続編は本日お昼ごろにアップ予定。今のうちに前編を! 5年弱前 replyretweetfavorite