交際してきた男性はみんな私の母のことを「怖い」と言う
二村 「親に騙されていた」って思いは、あまりないんですね。
岡田 騙すならもっとうまく騙せばいいのに、って感じです……。思春期はそれなりに悩んでいたと思いますけどね。世間には、もっともっと巧妙な罠をしかけてくる親もいますよね。
二村 それで子供のほうは20年くらい後になって「あ、これは親が仕掛けた罠だったんだ」とかって気づいたりするんですよ。あとね、やっぱり同性の親のほうが子どもに影響を与えやすい。岡田さんは女性だから、お母さんの影響はあるんじゃないかな。
岡田 これまで私がつきあってきた男性全員が、口を揃えて私の母のことを「怖い」って言うんです。
二村 旦那さんも?
岡田 夫もそうですね。「僕はあんな女性とはつきあえない、お義父さんは、すごいね」「でもきっと、君も将来あんな女性になっちゃうんだね」って言われたりとか……。そう言われると、私まで怖くなりますよね(笑)。
二村 岡田さんご自身は、お母さんと、どうつきあっているんですか?
岡田 強い人ですよね。敵対せずに、円満につきあっていくことを目標にしています。ただ「お母さんにはかなわない」って諦めるような娘にはなりたくないし、母も母で「この私を超えてみろ」と思っているはずなんですよ。憎しみを剣に託してギッタギタに倒す、みたいなことは到底不可能ですけど、親である彼女より子である私のほうがいつも一歩先へ進んでいるとか、ちょっと何かで上回る、そういう関係性ではいたいですかね。
二村 お母さんに対抗するための武器は、なんですか?
岡田 な、ないかも……。長男の嫁として子供三人を産んで育てて、育児が一段落したら絵画教室やギャラリーの仕事を始めて、個性のカタマリみたいな……、まぁ、ものすごい強敵なんですよ。そして、我が子に対して「我々に頼らず、我々を超えてみろ!」と倒されるのを待ち構えてる、みたいなところはありますね。経済的自立を強く促してきたりとか。
二村 あ、それが【お母さんがあなたに与えた武器】だよね。
岡田 そうですね。親として強大な存在でありながら「その親を越えて行け」っていう使命を私に託したのは、彼女なりの愛だと思うんですよ。「早く大人になれ」という焦りも彼女から授かったものかも。
二村 これはオタクである岡田さんに訊くんですが、物語の類型において、主人公って【強敵からもらった武器】で、その敵を倒せるものなの?
岡田 それは……。いや、でも、主人公の少年が倒すべきラスボスが、じつは彼の男親だった、という物語はたくさんあるでしょう? 倒してから仮面をはいでみたら、「と、父さん……(涙)!」みたいな展開。あれと同じだと思いますよ。育ててくれた母親のためにも、一思いに「オヤジ越え」ならぬ「おふくろ越え」をしてあげたいという気持ちもありますよ。
『イグアナの娘』を読んで、母との関係を理解した
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